【第5回】青森県教育改革有識者会議実施内容まとめ
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本記事では内容を一部抜粋して掲載しておりますので、ノーカットでご覧いただける動画も併せてご活用ください。
むつ市が進める中学校の部活動の地域移行について(むつ市教育長阿部謙一氏)
現在、むつ市内全中学生は1227名。少子化が進んでおり、5年間ごとに 200名ずつ減少していくと予測されている状況にあります。生徒たちの活動の機会を保証するために、学校単位から地域単位での活動へと移行することが必須であると考え、 市が主導して部活動の地域移行に取り組みました。真の目的は、生徒に選択肢と充実した活動を保証することです。本活動は「むつ☆かつ」と称し、今年度、3つの運動部と10の文化部を移行いたしました。昨年度までは全生徒の加入は強制としており、地域移行を契機として、今年度からは任意制としています。 令和7年(2025年)度末までに全てを移行する予定としています。
続いて、今年度8月に市内全中学校教員を対象として実施したアンケート調査の結果をお知らせします。「『むつ☆かつ』参加生徒は意欲的に取り組んでいるか」という質問に対しては、87%が肯定的な回答(「意欲的」+「とても意欲的」)をしています。また、「『むつ☆かつ』に安心して活動を任せることができたか」については、91%の教員が肯定(「安心」+「とても安心」)しています。昨年度は生徒を対象にアンケートを実施しました。ここからは「むつ☆かつ」移行後も充実した活動が行われていると見ることができます。
一方で、教員に対する「『むつ☆かつ』が始まり勤務負担は軽減されたか」の問いについては、「大幅に軽減」+「軽減」が10%にとどまり、「軽減されていない」+「あまり軽減されていない」で90%という結果となりました。この結果を真剣に受け止めて、さらに勤務負担軽減に取り組まなければならないと考えています。着々と勤務負担軽減に取り組む必要があります。
部活動の方に目を向けてみると、「顧問をしている部は自身の専門か」という質問によって、65%の教員が専門外の部活動に従事していることがわかりました。また、「部活動の悩み」に対しては、多い順から「専門的指導力の不足」「自分の時間が持てない」「設備不足」「多忙」などの声が並んでいます。「むつ☆かつ」により、こうした負担を軽減していきたいと考えています。
続いて、活動時間に関する調査をしたところ、平日1時間以上〜2時間未満、休日は2時間以上〜3時間未満という回答が多かったです。月当たりにすると48時間となります。さらに、試合や遠征の年間日数は平均して、1人当たり 13日程度という結果になりました。これは生徒に活動を課している時間と同一です。むつ市においては、全教員が 部活動の指導に当たっているということを数字の上からも裏付けることになりました。市内中学校の勤務時間外労働時間は平均70時間でしたので、そのうちの69%が部活動指導に費やされていることがわかっています。地域移行を計画的に進め、部活動にかかってきた拘束時間を解き、教員にゆとりをもたらし、学級経営や学習指導等にじっくり取り組める環境を構築していきたいと考えています。
教員に「部活動にやりがいを感じるか」という質問については、「感じる」+「とても感じる」という回答は38%となりました。一方でもっとも多かったのが、「どちらとも言えない」(45%)でした。それについては、「部活の意義は大きいけれども、教材研究の時間が足りないことを考えると一概にやりがいを感じるとは言えない」といった声が出されています。
部活動の地域移行は、令和7年度末までに完了する予定で進めています。現段階(令和5年度)で、翌年(令和6年度)の移行を望む方が多い(令和7年度の2倍程度である)ことがわかります。その結果から、早期の移行を望んでいることがわかりました。また、今後「むつ☆かつ」で指導者として活動する意向を聞いたところ、「活動する」は7%、「しない」が51%、「わからない」が41%となりました。
以上のアンケート調査結果を受けて、大きな課題として考えていることが2つあります。1つ目は、意識の変容です。学校が「部活動も含め全てを担うものである」という考え方から脱却していく必要があるでしょう。生徒・保護者・教員・地域へ、理念と情報の発信を徹底し、実現できる体制を整えていかなければならないと考えています。課題の2つ目は、全国的にも例が少ない地方自治体が進める地域クラブへの理解の促進です。地域移行のスタイルは様々です。我々の目的と活動実態について、広く理解されているとは言い難い状況にあります。周知を徹底し、共同体制を構築していきたいと考えています。
むつ市の調査結果を受けて〜宮下宗一郎知事のコメント〜
有識者会議の委員の皆様、いつも丁寧に議論を重ねていただいていることに心から感謝申し上げます。「むつ☆かつ」を始めたきっかけはすごくシンプルで。子どもたちがかわいそうだったことです。もちろん部活動内で輝いて打ち込んでいる子もたくさんいますが、やらされている子どもたちも沢山いました。さらに、専門性がない先生方が従事することで、適切な指導が行われにくい状態が生まれています。子どもたちの活動の保証をすべく、地域で受け皿を作ろうという発想でスタートしています。
その時に、学校側にお願いしていたはずなのは、授業改善や校務改革なんです。今年、運動部の半分程度、文化部のほぼ全てが地域に移行できたので、従来の義務から解放されて、校務に向き合う時間ができているはずだとイメージしていたら、今回の調査で出てきたのは「全く変わっていない」という状況でした。なぜそうなったのかということを突き詰めて考えなければ、 地域移行したからといって、必ずしも先生方の負担が軽減されることにはつながりません。ただ、「むか☆かつ」自体が間違った方向に進んでいるとは思っていません。大事なのは、授業改革も含めた校務改革と同時に進めていくことです。これまでのマインドから抜け出さない限り、それはできません。働き方について、丁寧に議論を進めていかなければいけません。むつ市という枠組みで、チャレンジしているわけですから、教育委員会を中心に、学校現場にはしっかりと取り組んでいただきたいと思っています。
部活動については、青森県全体で同様の課題を抱えています。仮にむつ市がうまくいけば、各地域で部活動を学校から切り離せる可能性が広がります。調査結果からもわかる通り、先生方は「部活動を地域移行してほしい」と望んでいるんです。かたちが見えてくれば、協力してくれる方々も出てくるでしょう。そういう意味で、地域としてのかたちをしっかりと示していくことが重要です。
繰り返しになりますが、授業改善を含む校務改革をしっかり遂行していただくということが本来的なあり方なので、ぜひその点の議論を進めていただきたいと考えています。
日野田直彦常任委員(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校の中高学園長、千代田国際中学校校長)ご講演
学校は変化していくもの
2050年、皆さんどこに立っているでしょうか?大人である私たちは、亡くなっていたり第一線を退いていたりするような年なんですよね。しかし、小学校1年生の子たちは34歳です。中学校1年生は40歳。つまり、今の私たちよりもまだ若い。そんな未来に生きる子たちが今学んでいる学校がどんなものか。実は1000年前からあまり変わらないんですよね。当時は、知識を欲している人がたくさんいて、知識を持ってる人が少ないという社会構図でした。そのため、一人が教えてみんなが聞くという一斉授業のスタイルが効率よく、その中には聞いていない子もいれば寝ている子もいるようば状態でした。この状態は、戦前も戦後もあまり変わらないまま継続されてきたんです。
「学校教育は、講義形式だけでなくてもいいのではないか」と気づいたのがここ数年ですよね。思い込みを外していくことがいかに大変かということなんです。そして、人は見たいものしか見ないですし、見たものを自分の都合のいいように解釈する傾向もあります。その結果、自分の受けた教育の再生産を繰り返し続けてきました。つまり、我々自身がアップデートする姿勢を忘れてはいけないんです。
そもそも学校とは、近代資本主義社会において、資本家にとって便利な労働者を大量生産するためのシステムの一環として生まれています。労働運動など起こされたら困りますから、読み書きそろばんさえできて、従順に従う者を育てる仕組みだったんです。
現在は、そんな目的で教育は行われていないですよね。しかし、1対40で授業をしている以上、どうしてもその傾向が滲み出てしまうことがある。教員である私たちはそうした問題意識を持っておかないといけません。
また、現代の日本の学校に足りないのは、オーナーシップです。これは社会全体でいえることでもありますが、学校のせい、先生のせい、家のせい、社会のせい、政治家のせい…、誰かのせいにしても問題解決にはなりません。自分たちで主導権を握って、解決に向けて行動していくことが重要だと考えています。また、心理的安全性を担保していくことも重要性でしょう。それがなければ対話も成立しません。理解と共感をベースにした議論の文化を育んでいくことが大切です。
OECDのエデュケーション2030においては、Knowledge、Skill、Mindsetが「求められる力」として挙げられています。私はこれを、「型を覚えて、型を使って、型を越えていく」という守破離のことであると解釈しています。そして、こうした学びを経て自身のパーパスに気づいていくことが、学校教育の本質ではないかと思っています。
青森県に感じていた縁
実は今回の青森県の有識者会議にお声掛けをいただき、強いご縁を感じました。子どもの頃、バンコク日本人学校に通っていたのですが、そこでの担任の先生が野辺地町の前教育長だった故・河島靖岳先生だったのです。
私はかなり手のかかる子だったので、よく叱られましたし、夏休みの宿題をやらず家に呼ばれて奥様と指導してくださったということもありました。いわば青森県の先生の熱量をひしひしと感じて育ったんです。河島先生と過ごした時間を経て、卒業文集で「中学校の先生になりたい」と私は書いています。河島先生がいなければ、私はここに立っていません。今は、河島先生にいただいたご恩を、青森県の皆様にお返ししていくことが、私の使命だと思っています。
世界と日本の変化
バブルの時代には、世界のトップ50社の中に日本の会社が30社入っていました。しかし、現在、このランキングに残っているのはトヨタだけです。世界にはどんどん優秀な経営者が出てきていますが、日本では高齢化が進んでいる。例えば、65歳の経営者と38歳の経営者であれば投資家はどちらに価値を見出すでしょうか。そうした厳しいジャッチがくだされているのです。
日本人がいわば発展途上国であると思い込んでいる国々の台頭も目覚ましいです。先日訪れたタイではマクドナルドのバリューセットは日本よりも高額でした。つまり日本の方が物価安いんです。 アフリカのナイジェリアではアトランティックタウンという未来都市のような街を作る構想が動いています。そして、2050年の推計GDPは日本は7位で、インドネシアにもブラジルにもメキシコにも抜かれるといわれています。
1960年代の日本は、大人たちが「責任を取るからどんどん失敗せえ」と若者たちに伝えていました。若者たちが動かなければ社会は変わらない。だから、「どんどんやれ」と背中を押していたんです。そして、年配者が「血だらけになっても、おまえらを守ったるから!」と言っていたんですよね。それが日本の強さにつながっていた。今の日本は、私たちがそれをしていかないと変われません。若者たちに失敗させてあげるのが僕らの使命ではないでしょうか。
大阪府立箕面高校での取り組み
ここから、私の学校改革の経験についてお話ししたいと思います。36歳の時、大阪府立箕面高校に民間人校長として赴任しました。民間人校長になったのは、あまりに学校現場が困っていたので、何かお役に立てないかな、と思ってのことでした。箕面高校は偏差値50くらいで地域の4番手の一般的な学校です。改革をするというミッションでしたが、とにかくお金がない。どのくらいなかったかというと、校長の出張旅費が月600円でした。
新たなことに取り組もうと呼びかけても、生徒も先生も保護者も一緒になって、「無理」「わからん」「できへん」と言います。 とどめに「いかがなものかと思う」と言うんです。これまでも何かをスタートしようとするたびに、各校務分掌で「いかがなものかと思う」と言い、つぶしあうような状態だったんです。この状態では何も進められません。そこで教職員の話を聞きながら、問題解決をじわじわしていく役回りを続けていきました。
その後、箕面高校は大阪府の骨太の英語力養成事業という事業に指定されました。事業の名称は立派ですが、予算は月5万円! 年60万円では何もできませんから、企業にはプロトタイプを試す場として箕面高校を使ってもらっていいからと伝えて、協働していくよう働きかけていきました。企業にとっては公立学校で試すことができることは大きなメリットになります。保護者にも生徒にも先生にもそれを説明した上で一緒に実施していきました。
学校が外部に依頼をすると、「いい結果を出してくれ」と完成度の高い授業を求めてしまいがちです。しかし、そうすると他人事になってしまい、典型的な失敗パターンに陥ります。だから、企業には「わざと下手くそな授業をしてください」と伝え、生徒と教員のフィードバックを介してブラッシュアップしていけるような余地を大事にしました。そして、最終的には自分たちで授業をできるようにしたのです。予算が限られているので、企業に依存していたら学校に根付かせることはできないからです。こうした取り組みを続けていった結果、3年たつと自分たちで授業ができるようになりました。
私が着任した段階では、箕輪高校には卒業段階で英検2級を取れる子が2人だけでした。それが3年後、TOEFLのスコア「101-120」の生徒が2人出るようになりました。ちなみにTOEFLの60点は、帰国子女レベルです。TOEFL 80点がユーシーバークレーのボーダー。そして、100点になるとハーバードレベルといえます。しかも、この100点をとった子は入学段階で英検3級に落ちているんです。主体的に学ぶことで、これだけ伸びたんです。
また、英語の偏差値も65まで上がりました。偏差値が上がった背景として、定期テストの対策や模試の対策などを一切やめたことが挙げられます。生徒たちが主体的に取り組むようにすることで、これだけの変化があったのです。
さらに、英語だけでなく他教科の学力も上がっていき、最終的に海外に進学する生徒が36名にものぼりました。ちなみにそのうち帰国子女や海外ルーツの生徒は一人もいません。しかも、教員は1度も「海外大学にいこう」とは呼びかけていません。海外は生活するだけでもかなり大変です。実情としては、止めても止めても止まらなかった子たちが海外に飛んでいきました。ちなみに、ミネルヴァ大学に日本ではじめて受かったのも箕面高校の卒業生です。
どん底からの再生
現在、私は、武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校の中高学園長、千代田国際中学校の校長をしています。こちらがどのような学校かというと、単年度赤字2億円、累計赤字17億円、中学校募集停止、定員充足30%の学校です。青森県では人口減少が起きていますが、それよりもひどい状況が東京の一部の私学に起きていたりします。
とはいえ、日本中の企業も現在このような危機的な状況に陥っていますよね。先日、戦後最大の内部留保と話題になっていましたが、前向きな経営姿勢であれば、その分の資金を開発に回すはずです。つまり、ディフェンシブになって、いわばゾンビのような会社だらけになってしまっているのです。
子どもたちはそういう社会に出ていきます。私が子どもたちにいってるのは、「日本の社会はもうガタガタになっていて焼け野原の状態だ。自分たちがこの国をもう1回立て直す時が来た。 だから、自校に入学して、一緒に立て直すことを経験したら、社会に出て行った時にも同じことが起こるからいい経験ができる。 最高の実験ができるよ」と伝えています。そして、正直にスカイダイビングをするような飛び込む思いできてほしいと言っています。
私は就任当時の6年前に、 「最高のグローバル教育を受けられる海外のトップ大学合格」といったことを目標のひとつに挙げていました。しかし、多くの人に「偏差値のつかない高校で何を言っているんだ」と笑われました。しかし、偏差値は現時点でペーパーテストに強いかどうかを示した指標にすぎません。つまり、本当の意味で頭が良いかはわかりませんよね。我々教員には、ペーパーテストだけではなく、それ以外の力を見抜くことが求められています。
そもそもこれからの社会にはどのような力が求められているのでしょうか。その力はペーパーテストだけでは測れないのではないか、と私は思っています。ハーバード大学の入試問題には、「あなたはクラスメイトにどうやって貢献しますか」(上段)とあり、さらに別の問題では「リベラルアーツとはどういうもので、それはどのような実用性につながる価値があるでしょう」(下段)と問うています。日本では英語が話せたらグローバル人材だと思われがちですが、世界ではこういう話をきちんと自分の言葉でできる力こそが求められているのです。
もう一つハーバード大学の問題を紹介します。「あなたはその学びの何を愛しているんですか」と問うている問題です。これに対して多くの生徒が、「私の興味があるものは…」といったトーンで書き始めます。しかし、「love」を問われているので、それでは弱いんですよね。パッションを前面に出すような表現をしていくことが求められているのです。
現在は「こんな教育がいいのではないか」「こんな学校の方がよいのではないか」といった議論がさまざま飛び交っています。しかし、何事にもメリット・デメリットがありますよね。それを整理していくことが重要だと思います。下記の図では、「日本の学校」「インターナショナルスクール」「国際バカロレア」のメリット・デメリットを整理しました。日本の学校は均質な授業をしていますし、守破離を学べ、先生たちの品質は高いです。ただ、自由度が低く、多様性が足りていない。 インターナショナルスクールは真逆で、自由度が高く、英語力伸びて、多様性があるけれど、ほったらかしです。
こうしたメリット・デメリットを鑑みて、本校では”いいとこ取り”のカリキュラムを組み立てています。午前中はしっかり勉強をして、午後は基本的にプロジェクトワークとしています。そして、土曜日はさまざまな外部の方に1週間取り組んだことに対するフィードバックをもらったりグループでプレゼンをしたりして、プロジェクトを作り上げていく活動を行っています。
また、心理的安全性を担保してみんなで腹を割って対話する教員の会を開くようにしました。 例えば、各先生方がどんな人生を経てこの学校に勤務することになったのかを話してもらいました。こうした対話の時間が設けられている学校は案外少ないものです。大変な状況にある学校では、生徒への手厚い指導を重視するあまり、補習・補講をたくさん実施し、先生方は疲れ果てています。さらに、生徒も疲れているんです。だから、補習・補講をやめてくれと伝えました。 それよりも、「先生になって楽しかったこと」などを話してくださいと伝え、対話の時間を確保していきました。こうした自分が得意なことややりたかったことを話してもらう時間を重ねていくと、先生方が元気を取り戻していきました。新しいことをする前には、既存のものを減らさない限り絶対に無理です。まずは先生方が元気になっていくことが、何よりも大事だと思っています。
他にも、生徒をハーバードに連れていく取り組みを行っています。アントレプレナーシップのプログラムを2週間受けていくと、生徒たちはアメリカの方々にきちんとプレゼンテーションでき、しかも感動してもらえるような発表ができるようになります。本場の環境に足を踏み入れることで、モチベーションが上がり、「英語で思いを伝えきれずに悔しい」という思いを抱くようになります。すると、帰ってきてからも必死に勉強をするようになるのです。結果的に、このプログラムを経験した生徒の中からハーバードクラスの大学に進学していきました。他にも海外大学の進学は下記の図のように増えています。
私は日本の大学が悪いと言っているわけではなく、ここにもメリット・デメリットがあると思っています。大切なことは、現状からどんどん飛び出していく力をつけること。私はよく「子どもたちをハーバード大学に入れたいんですか?」と質問されることがありますが、正直、それはどうでもいいんです。大切なことは彼らが勇気ある決断をできるようにすることです。その力を教育で育んでいけるといいのではないでしょうか。
そして、本校では部活動をやめました。私は現場の教員をしていた時には、サッカー部の顧問をしながら、将棋部の顧問をしつつ、ディベート甲子園に出して、歴史研究部の担当もしていました。休みは全くありませんでした。だから、現場の先生方のお気持ちが痛いほどわかります。その上で、本校では部活動をやめ、それに代わる「課外活動」を設けました。
専門的な指導ができない中で、不安を抱きながら部活動の顧問をしているか先生方は多くいます。なぜこのように学校で部活動が重視されているかというと、1970年代の学校において部活動を生徒指導として機能させていたからです。実際に私は警察の方から「学校があるから警察が助かっているんです」と何度も言われてきました。一概に、部活動を否定するつもりはありませんが、労務管理上、労働時間の超過の大きな原因になっているという課題は見過ごせません。また、安全管理上のリスクもあります。実際に部活動の事故で裁判となり9600万円の損害賠償請求となった判例が出ています。国家公務員であろうが地方公務員であろうが、部活動で事故が起きたら、個人賠償請求の対象になります。これに対しては、私も非常に憤りも感じています。真剣にみんなで議論して、どう教員の立場を守っていくかを考えていかなければいけないと思います。
部活動をどのように地域の活動へ移行するか。具体的にいうと、就学支援金を活用する方法が考えられます。有効な活用をすれば、格差を是正することにもつながるでしょう。詳細な取り組みにご関心がある方は、下記のQRコードからぜひご覧になってください。
私が先生方にもいつも伝えているのは、「遊びの時間を作ってほしい」ということです。車でいったら、ハンドルにあそびがなかったら危ないですよね。遊びの時間をきちんと作って、ゆとりを持ってやる。そうでなければ保ちません。
勤務している学校だけがよくなればよいということではなく、私は日本全体をみんなで問題解決するために、プロトタイプの学校を作り続けていく精神で改革を進めています。ミッションは「社会と接続する学校教育モデルを構築し、未来の世界に貢献する」こと。そして、ビジョンは「自他ともに心豊かに生きることのできる社会の実現を希求する真のオーナーシップを持った生徒の育成を行う」です。
学校改革の手順は、「とにかく小さく始めて大きく育てる」「失敗をお互いに応援する」「勝手に『無理だ』と決めつけない」「他人の力を借りまくる」ことです。問題が多すぎるので、一人で立ち向かうことは絶対にできません。みんなで困ったことを「困った」といえることが1番大事だと思っています。
スティーブ・ジョブズは「海軍ではなくて海賊になろう」と言っています。チームを集めて、一緒にプロジェクトを乗り越えて、苦労を共有して、解散して、そしてまた集まる。そんなふうに力強く大海原に漕ぎ出す子どもたちを送り出していく教育を共に実現していきましょう。
委員による意見交換(敬称略)
■学校の働き方改革をどう進めたか
日野田先生のマネジメントに非常に興味を持ちました。ご講演で生徒の変化に触れていただきましたが、先生方には、どのような変化があったのでしょうか。(フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥)
箕面高校は平均年齢55歳(当時)の学校でした。 そこに、36歳の校長がパラシュートでいきました。私はトップダウンが本当に苦手なので、右手にコーヒー、左手にお菓子持って、先生方を回って「困っていることはないですか」「やりたいことないですか」と、順番に聞きまくりました。当然最初の3ヶ月は無視されます。何回も話しているうちに、みんなぽろぽろと語ってくださるようになりました。そこで出てきた困りごとを、私が代弁者になって、職員会議で「実は3人以上の先生がこういうことに困っているようなので、皆さんで議論してもらっていいですか」と話をふるようにしていました。こうして、少しずつ少しずつ心理的安全性が担保された職場を作っていきました。私も現場の教員だったので、校長から一方的に言われると「現場のことを知らないくせに」と反発する気持ちになることもわかります。だから、現場の先生のプライドを大事にしながら丁寧に積み上げて、現場の先生と生徒を巻き込みながら取り組んでいくことが重要だと考えています。(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校の中高学園長、千代田国際中学校校長 日野田直彦)
箕面高校で先生方の残業時間をすごく減らしたと聞きましたが、こちらの会議をご覧になっている先生方のエールになるように、そのあたりを少し詳しく教えてください。((株)先生の幸せ研究所代表取締役 澤田真由美)
私の赴任時は69時間のオーバーワークを先生方は行っていました。そして、私が退職する時にはそれが29時間まで減ったんです。議論をしながら少しずつ切り上げていったのですが、その中で遊びの時間をきちんと取ることと、家族の時間を大事にすることを重視して、と伝えていきました。例えば、家族のイベントがあったら学校を休んでも構わないという雰囲気をみんなで作っていこうと4年間対話し続けました。
そして、校長先生の問題になりますが、現在の戦力と仕事の数から、「今年はここまでしかできない」というラインを見極めることも大事にしました。それは教員間で話し合った方がいいですし、生徒にも腹を割って話す。「できないことは来年に回しましょう」ということになるかもしれないですし、保護者や関係する方々にサポートしてもらうという方法もあるかもしれません。教育法規も踏まえながら、学校ですべきことは何かの話し合いは続けていく必要はあるでしょう。
また、これは今もやっているんですが、19時頃になるとスマホで『蛍の光』を流しながら職員室を回っています。効果抜群です(笑)(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校の中高学園長、千代田国際中学校校長 日野田直彦)
初任の先生などに、学校側が労働条件をきちんと伝えていないようなこともあります。「年休は何日ある」といったファクトがきちんと伝えられていないまま働いている先生方も多いのではないでしょうか。そうした当たり前のことをきちんとやっていく必要がありますよね。(副議長 森万喜子)
■部活動の地域移行について
むつ市では、地域ボランティアには1時間あたり1600円が支給されてるということでした。支給の仕組みや、現場における課題があれば教えてください。(副議長 森万喜子)
時間単価については、市の予算措置が講じられています。「むつ☆かつ」の指導者に対しては、地域の方にも教員にも一律で支給されています。一方で、学校の中での部活動として無償で取り組んでいる先生もいらしゃいます。完全移行となればこうした混在はなくなりますが、現時点においては不公平感が生じないように重々配慮して、学校に対しても支援をお願いしているところです。(むつ市教育長 阿部謙一)
杉並区では、平成30年度から5年にわたって、部活動検討委員会が立ち上がっています。学校の部活動に所属したくない子どもが希望して入ることができる地域でのクラブを用意しています。また、少子化なので学校長同士で話し合って、合同サッカー部、合同野球部、合同バスケット部なども現在行われています。
教育委員会では先生以外の指導者の確保について、3つの具体策を講じています。一つ目は長年地域でスポーツを指導してくださってる地域ボランティアの方には、1日2200円支給されます。1校分2200円×365日分の予算措置がなされており、学校裁量で地域ボランティアを採用することができます。二つ目は、学校の依頼をNPOが受けて、企業や団体に連絡して指導者を派遣してもらう体制を整えています。この事業には3200万円がつけられています。三つ目は、国が示している会計年度任用職員を活用した制度で、学校の「サッカーの指導者がほしい」といった要望に応じて、区教委が採用して、希望校に配置する仕組みです。
杉並区は、ここまでくるのに5年間熟議しています。学校の働き方改革にもつながっており、 先生方からも評価を受けています。
そもそも、部活動に対する保護者の期待が大きすぎると思っています。学校が全てを担うなんてありえないこと。もっと広い視野で考えて、子どもたちがやりたいことができる環境を整えていくことが重要なのではないでしょうか。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)
現場の先生の困りごとは聞こえてきているんですが、子どもの声をもっと聞きたいということをずっと思っています。「本当は部活動の強制は嫌なんです」「辞めたいんです」という子もいるんじゃないかな。(副議長 森万喜子)
私も部活動の指導をしてきた身ですが、「優勝を目指して命懸け」のようなスポコンを地でいくような部活動も多いんですよね。それにより、団体意識に縛られた感覚になったり、長時間練習につながったりもする。 体育会系だけでなく文化系部活動でも、「金賞を目指す」などで同様の状態は起こりえます。こうした勝利至上主義でいいのかは考える必要があるのではないかと思います。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)
おわりに
日野田先生の講演から、大変パワーをいただきました。日野田先生のお話から、教育の本質や理想から目をそらしてはいけないと改めて思いました。いわゆる評論家ではなく、実践にこだわる委員を選んだのはまさにこういう点です。委員の方々は、大体同様の感覚値を持っています。一方で、お話いただいたことに対してギャップを持つ方々がいることも認識しています。私たちはそのギャップを埋めていくような提言・提案をしていかなければいけないと思っています。
また、青森県だけでなく全国の教育関係者にも、今回の議論をご覧いただき、ぜひそれぞれの地域で深めていただきたいとも思いました。
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