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【風張知子教育長インタビュー】2024年度「学校教育改革元年に込めた思いとアクション」

2024年3月に、風張知子教育長へインタビューを実施しました。「学校教育改革元年」と位置付けた2024年度に向け、どのようなビジョンを描き、アクションを行っていくのでしょうか。また、先生方やこどもたちへの思いとは。お話を聞きました。


青森県の教育でどのような力を育むか

ーーこどもたちに育てたい力を教えてください。

予測困難な時代が到来する中で、私たちが責任を持ってこどもたちに何を教えていくかが問われていると感じています。自ら考えて、判断し、行動していく。そういう大人になってもらうことが、本当に大事なことだと思っています。

想像がつかない時代においてたくましく生きていくためには、主体性や自己を肯定する力が必要です。それに加えて、私は自分も他者も認められる思いやりを根底に育んでいく必要があると考えています。生きていく力は強くとも「自分だけよければいい」という人ばかりであふれては社会は立ち行きません。

未来を生きるこどもたちにとって、社会を切り拓いていく力と他者への思いやりは両輪だと考えています。

私は、「青森県基本計画『青森新時代』への架け橋」で掲げられている「対話」というキーワードに、思いやりや協働の願いが含まれているように思っています。小さい頃から、家庭や社会、学校で、他者と思いやりを持ってつながっていく学びが非常に重要ではないでしょうか。

現状の教育における課題

ーー現在、どのような課題をお感じになっているか教えてください。

1つ目の課題は、GIGAスクール構想によってタブレット端末はこどもたち全員に配布されていますが、それを用いた個別最適な学びの充実にまではまだ行き着いていないという点です。この学びをどう実現していくかが問われていると思います。

2つ目の課題は、他県と比べ、青森県を出ていく若者が多いという点です。人は自分が好きな土地には「住んでいたい」、あるいは「戻りたい」と思うはずです。「青森県教育施策の方針」にも「郷土に誇りを持つ」ことが掲げられていますが、実際にどうその心を育んでいくかを検討しています。

ーー「郷土に誇りを持つ」教育としては、学校での探究活動を重視するのでしょうか。

もちろん、県立高校でいえば「あおもり創造学」などで郷土の良さを体現していくことも大切です。しかし、「郷土に誇りを持つ」ことは、学校の中だけでできることではないと考えています。家庭や地域の方々が一緒になって、「青森県はすごくいいところだよ」「よかったね、青森県に生まれて」といえる雰囲気を作っていくことが欠かせません。

そのためには、大人もこの土地を好きになり、笑顔でいられるような環境を作っていく必要があります。こどもだけでなく、社会全体で向かっていかなければいけないと思うのです。以前、私は八戸市役所でまちづくりを担当していました。「まちはそこに関わる人の思い以上の場所にはならない」とよく言われています。私自身も青森県が大好きですが、そうしたシビックプライドを育んでいくことが欠かせないと思うのです。

自分の拠りどころである郷土に誇りを持つことは、こどもたちの自己肯定感の醸成へもつながります。これはこどもたちの人生を左右するほどに重要なことだと思うのです。

ーー現在、こどもたちは青森県に対してどのような思いを抱いているのでしょう。

高校生が表敬をしてくださると、私は「青森県のことは好きですか」と尋ねるようにしています。すると、みんな「好きです」と言います。その理由を聞くと多くの子がお祭りを挙げます。青森県は夏になると、噴き出すようにどこのエリアも祭りで盛り上がります。祭りを切り口に青森県に愛着を抱いている子が多いのは、ある種、今の大人たちの成果でもあると思うのです。小さい頃から見てきて、みんなが楽しそうにしているからこそ、その思いが育まれたのでしょう。味わい方はそれぞれでいいと思うんです。制作に関わるのが楽しい子もいれば、本番ではしゃぐ子もいるでしょうし、ゆっくり眺めるのが好きな子もいるかもしれませんね。

こうした、現時点でふるさとの心の拠り所となっている祭などを糸口にしながら、「郷土に誇りを持つ」教育を実現していきたいです。いずれ彼らが大人になった時に、次の時代のこどもたちに思いを伝えていく。これが私が目指す地域の学びの循環です。

2024年度「学校教育改革元年」のアクション

ーー教育改革の方向性が示され、具体的に予算もつきました。2024年はどのような年にしていこうとお考えですか。

2024年は「学校教育改革元年」という位置付けで捉えています。教育改革有識者会議が提言した内容の多くは、令和6年度予算にも組み入れていただいたので、今年は「実行する年」だと考えています。

最も重視しているアクションは、学校の働き方改革により、先生方が精神的に余裕を持てるような仕組みづくりをしていくことです。精神的余裕の部分は、時間で換算することも重要ですが、必ずしも残業時間だけでは推し量れないことがあるとも思っています。先生が心の余裕を持って笑顔でこどもたちと接することができるように、例えば、校務のDX化や小中学校へのスクールサポートスタッフの配置、外部コンサルティングによる学校経営力の強化などにも取り組んでいくことが可能です。

通常は、市町村立の小中学校に対しては県による予算措置が難しいものです。それを働き方改革に伴う施策においては、生徒数に応じて県が半分補助するという画期的な取組が可能になりました。今回の予算は市町村や各学校のアイデア次第で比較的自由に使えるお金です。ぜひ公立の小中学校でも利用していただいて、校務改善につながるアクションを起こしてほしいと思っています。「学校教育改革元年」として一緒に歩みを進めていきたいと思っています。

ーー働き方改革において、県教育委員会では学校現場とどう協働し、支援していこうとお考えでしょうか。

2024年度から教育政策課内に「学校の幸せ推進室」を新設します。実は「働き方改革推進室」といったネーミング案もあったのですが、そうではなくて、「学校の幸せ」の実現をサポートをする組織にしなければいけないという思いを込めて決定しました。

学校の働き方改革について、「学校の幸せ推進室」のメンバーだけが支援していくのではなく、学校教育課や教職員課、スポーツ健康課の課長代理や各教育事務所等の職員も「学校の幸せ推進室」の職員を兼務させることで、さまざまな連携をとりながら教育委員会全体で動ける体制を整えます

指導主事と学校現場の声を聞いて回ることはもちろん、研修を担う総合学校教育センターとともに現在に合ったプログラムを構築していくことも検討しています。

各自治体の教育委員会との連携

ーー各自治体の教育委員会とはどのような連携を考えていますか。

市町村教育委員会教育長会議の時には、私の連絡先をお渡しし、「いつでも連絡をください」と伝えています。実際にすでに、「実はこういう状況で、この点は改善していただけると助かります」といったご要望やご相談を複数いただいています。関係性をより密にし、さまざまな率直なコミュニケーションを取っていく中で、小中学校の状況をより深く聞くことができるようになると考えています。

市町村によって、それぞれ異なる困りごとを抱えているはずです。だから、まずは「いつでもお話しください」と伝え、相談のハードルを下げることがとても重要だと考えています。引き続き協力し合える関係性を築いていくことに注力したいと思っています。

高校の校長先生との連携

ーー県の管轄である県立高校においては、直接校長先生とお話をすることもあるのでしょうか。

最近もおひとりずつじっくりお話しする時間を設けました。新しく校長先生になられる方や異動する校長先生たちにもお越しいただいて、私から「皆さんは改革に向けて、素晴らしいタイミングで校長先生になられているから、ぜひ楽しみましょう」とお伝えしました。「思いっきり自分の色を出してチャレンジしてください」と申し上げたんです。どこの学校も同じだったらつまらないじゃないですか。もしも失敗しても私たちがついています。その思いもお伝えしているんです。

校長会でも、「校長先生は会社でいえば社長です。いろいろな思いもあってなっているのだから、人の顔色を見ないで思いっきりやらないともったいないです。しかも、今こうやってすごく応援が入っている時なのでチャンスですよ」と伝えています。また、教頭会でも「誰もが教頭先生や校長先生にはなれません。選ばれた人しかなれないのです。だから、やりたいことをやらないと、絶対に後悔しますよ」とお話をしてきました。

これは私自身の経験ですが、自分が精一杯やり切ったと思う段階まで打ち込むとスッキリするんです。だからこそ、先生方にも、悔いなく、思いっきり取り組んでいただきたいと思っています。私たちは方針をきちんと伝えて、あとはプロフェッショナルである先生方にお任せしていく、そして困ったことがあれば全力でサポートをします。

ーー校長先生の裁量でどんどん色を出していってほしいとメッセージを出しているのですね。意欲を語られる校長先生もいらっしゃいましたか。

有識者会議の議論をずっと見ている校長先生もいらっしゃって、それに基づいて「ここをすでに改善してみました」「自分はこう思っている」といったことを語ってくださる方もいました。校長室を開放して、教室に行けないこどもたちに「いつ来てもいいからね」と伝えていたり、校則について「自由にしよう」と伝え続けてなかなか先生方に賛同してもらえなかったけれど、諦めずに対話を続け、「やっとわかってもらえた」とお話しくださったりした校長先生もいました。全員とはいいませんが、私がお話をさせていただいた感覚ですと、半数くらいの校長先生が有識者会議の動画やnoteの記事をご覧になって刺激を受けているようでした。

有識者会議には、第一線の教育実践者の方々が集まってくださっており、本当にありがたいと思っています。学校教育の目標はまさにおっしゃっていただいている通りです。あとは、それをどう実現していくか。学校現場は日々さまざまなことに追われています。毎日の授業だけでなく、問題やトラブルが生じることも多々あります。その中で理想に近づく手立てを具体化すべく、来年度は進んでいきます。

先生・保護者、そしてこどもたちへのメッセージ

ーー学校現場の先生方へメッセージをお願いします。

私は職業として教員を選んだ方々に対して、心から敬意を表します。個人的にも、一保護者としてこどもたちを通して先生方と接し、安心感をいただき、感謝を重ねていった経験があります。しかしその一方で、高い志を持って教員になられた方々が、今は多忙化によってご苦労をなさっていることが直接のお声や調査で明らかになっています。

まずは、学校の先生方が「楽しい」と思えるような環境を作っていかなければいけないと思っています。おもしろくない顔をして授業をすれば、それはこどもたちにも伝わりますし、先生方が思いを込めていらっしゃる学びの醍醐味も伝わりません。

先ほど、校長先生には「自由に新たなことに挑戦してほしい」とお伝えしていると話しました。しかし、仮に昔からのやり方に固執することを是とする方がいらっしゃった場合、現場の先生方は「変えたいのに変えられない」というジレンマを抱えることになります。その声を届ける仕組みづくりをしていくことが必要となるでしょう。「先生方が働きやすい環境を作る」と宣言しているのだから、そのための声を吸い上げる仕組みは重要です。これは県教育委員会がすべきことだと考えています。

また、現場の先生から「DX化が重要だというけれど、多忙な状況にまた新たな負荷が被さってくるかと思うと不安だ」といったお声をお聞きすることがあります。そのご不安もよくわかります。しかし、物事を変えるためには一時期負荷がかかることがあるのも事実です。それが今だと私は思っているのです。

私たちが、現場の先生方をサポートするために、率直にどのあたりにご苦労があるのか、どこが不安なのかを、声をあげてほしいと思っています。例えば、「自校の事情も聞かないでシステムを決められては困る」ということなのか、「ICT に詳しい自分がすべてを任されてしまって、21時まで残って対応することを余儀なくされている」ということなのかでは、我々にできる対応も異なります。何が大変で、どうしたら解決できるかを、共に具体的に考えてまいりましょう。まずは、そういうお声をみんながあげられる環境や仕組みを作る。そして、各市町村教育委員会とも連携し、困りごとの対応をきちんと行っていくことが求められると考えています。

志を持って先生になられた方々にとって、今は、チャンスが訪れています。知事のバックアップがあり、具体的に予算も付いて実行できる環境となり、挑戦の時が訪れたと思っています。ぜひ、一緒に頑張っていきましょう。

ーー保護者や学校を支える地域の方へのメッセージをお願いします。

保護者や地域の方々は、どうしたら学校やこどもたちの応援団になっていけるのかをそれぞれ考えていただきたいと思います。現在、本来は先生方がする必要はない仕事も先生方が担っている状況があります。それにより、多忙が一層積み上がっています。その点への理解を、私たちも機会を見て発信していきたいと考えています。

例えば、「先生方が大変だ」と頭では理解していても、勤務時間外である17時以降に電話がつながらなくなると、「前の校長先生の時はつながったのに!」とお感じになる方もいます。変更に戸惑う気持ちもおありだと思いますが、そうしたお声が学校の変革を止めてしまう要素になることもあります。これからは、未来を担っていく青森県の宝であるこどもたちをみんなで大事にしていくために、先生たちが本質的な業務に集中できる環境を一緒に作っていきましょう。そして、学校の外側から評論をするのではなく、ぜひ当事者となって学校に関わってほしいと願っています。


ーー最後に、こどもたちへのメッセージをお願いします。

これからの時代をたくましく生きていけるように、青森県全体で皆さんを応援しています。学校は学びの場の一つですが、決して学校だけで学びが完結するわけではありません。学ぶことは、一生続いていきます。人生の全てが学びです。知らないことを理解したり、新たなことに挑戦したりすることは、すごくおもしろいことだと私は思います。皆さんには、そのおもしろさを味わい尽くしてほしいと思っています。いくつになっても学び続ける姿勢を持って、その楽しさをいずれ自分たちが大人になった時に、またこどもたちへと伝えていってください。

ご存知の通り、青森県は世界中で争いが起こっていた時代において、平和で協働性のある安寧な縄文社会を築くことのできた土地です。私たちの先祖はそういう精神文化を守ってきた人々です。だからこそ、この混乱している世界情勢の中で、青森県で育ったという自信と誇りを持って生きてほしいと思っています。

青森県というこの土地に育ち、さらに「こども中心」となる取り組みを実践していくこの時に学ぶことができている皆さんは幸せ者です。そして、私たちはその幸せをもっともっと底上げしていけるように、頑張っていきます。