【第10回】青森県教育改革有識者会議実施内容まとめ〜それぞれの子どもにとって適切な学びの場とは?〜
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はじめに(大谷真樹議長)
今回は、不登校などの幅広い意味でのインクルーシブな学びについて取り上げます。フリースクール全国ネットワーク代表理事の江川(和弥)さんに、これまで本会議の中で議論が足りていなかった部分を全国の情報と知見を交えてお話いただきます。
江川和弥特別委員(フリースクール全国ネットワーク代表理事)講演
私自身も、不登校の経験者で高校1年で学校をやめて、通信制高校に転校し、大検をとって大学入りました。 5年間、市の教育委員会で不登校と非行の支援の担当をし、その後、福島県会津若松市でフリースクール寺子屋方丈舎を設立しました。現在は、フリースクール全国ネットワーク代表理事であり、2020年からは文科省の不登校に関する調査協力者会議の委員にもなっています。
文科省の調査結果が発表されましたが、義務教育段階の子どもの不登校は約30万人となっています。学年が上がるにつれて、不登校の子どもはどんどん増えていき、特に、 中1、中2、中3になると、かなりの数にのぼっています。全国平均では、1クラスに約2.5人の不登校の生徒がいるという状況になっています。
不登校の割合は、1000人あたり25.7人が平均となっています。青森県は22.6人なので全国平均よりもやや低いという結果になっています。
30日以上欠席の子どもが不登校とカテゴライズされるのですが、最近の傾向としては90日以上の欠席が中学校で6割、小学校で4割となっています。つまり、不登校の中学生のうち6割程は、ほとんど学校に行っていないという状況になっています。
【問題意識1】どこにもつながることができていない子どもたちの存在
約30万人の不登校のうち、教育センターに通っている子どもや学校と関わっているのは13万1141人です。病院や児童相談所、カウンセラーに通っている子は10万3339人。フリースクールのような場所に通っている子どもは8000人から1万の間といわれています。そして、どこにもつながれていない子どもが、11万4217人もいるのです。その多くが自宅にいるのだろうと考えられるのですが、学校には籍を置いているものの先生と相談関係を作れていなかったり、 スクールカウンセラーにも連絡ができなかったりと、どこにもつながれていない状況が生まれています。
自宅にいたくている子どもももちろんいますが、自分が合う学びの場が他にあればそちらへ行きたいと考える子も多いのではないかと想定しています。こうした子どもたちをどう支援していけばよいかが全国的な課題です。青森県の教育改革で、この課題を解決する端緒でも見えれば、全国的な先行事例になりうると期待しています。
不登校の子どもたちへの支援を4象限で分類しています。縦軸の下方部が先生中心で、上方部が子ども中心の学びと区分けしています。また、横軸の左側が家庭での取り組み、右側が通所での取り組みになります。
以前は家庭で学校から提供されたプリントや教科書に取り組む自習型が多かったのですが、最近では広島県平川理恵教育長なども進めていらっしゃる校内で居場所を提供する学校が増えています。これまで、校内の居場所があったとしても、「会議室にいていいよ」といわれるくらいでサポートはあまりありませんでした。しかし、最近では加配の先生が支援するような体制を作る自治体も出てきています。そうした傾向を受けて、若干保健室・会議室登校が増えています。
通所型では、教育センターが主催する適応指導教室などはそこまで人数は増えていません。一方で、NPOなどが行なっているオンラインのフリースクールは、コロナ禍を契機に増加しています。同期・非同期を使い分け、友達と一緒に過ごす時間と自宅で過ごす時間をつないでいます。
なぜ不登校になるのか?
「なぜ子どもたちは学校に行けなくなるのか」とよく質問をされます。子どもたちに教育や学びについて意見を聞くと、情報が詰め込まれているような気がするという回答がとても多いんです。中身はどうあれきちんと消化できないと「ダメなやつだ」といわれたり思われたりすると感じており、学習内容が飲み込めなくなった時に不登校になってしまうのです。友達関係や学習の躓き、先生との関係など、傷つく色々な要素はありますがこれが直接的な原因とは言い切れないことが多いんです。
現在、小学校2年生が、いじめが1番起きる学年となっています。以前は人間関係が複雑になってくる中学1年生あたりがいじめの山であると認識されていたのですが、今はそうではないんです。安全・安心の場が小さい頃から確保できていない状況の中で、飲み込めないほどの学習量が出され、子どもたちが不登校になると私たちは理解しています。
社会や経済状況の変化の中で、パラダイムシフトが迫られていると私は考えています。不登校の子どもは、既存の学校システムや現籍校には合わなかったかもしれませんが、 新しい価値観を大切にして、自分自身で選択をしていくことができれば伸びていく素地は十分にあると考えています。
不登校の子どもはどれくらいの期間で社会につながるか
保護者の方からは、「不登校になって元気を失っていますが、どれくらいの期間で元気になりますか」とよく相談されます。保護者によっては、「明日から学校に行けるようにしてください」といったことをおっしゃられることもあるのですがそれは難しい。やはり時間が必要なのです。
文科省の調査では、 不登校になった後、概ね5年後には進学したり就職したりしている子が多いです。フリースクールにいる私たちの肌感覚としても、 5年経てば8割から9割の子どもは社会参画しているという実感があります。フリースクールの中には、私たちの団体のように通信制高校を併設していることも多いです。そのため、フリースクールを居場所としながら、通信制高校でも学びつつ、18歳で就職や進学の道を選ぶ子が少なくないのです。
フリースクールとは何か
日本の教育課程の中では学校外の学びは定義されていないので、フリースクールについても定められていません。公教育とは異なる視点で学びを作っていくことがフリースクールだと思っています。
フリスクールは、大きく4つの項目で定義されます。
①子ども中心の活動が行われているか
②意見表明が尊重されているか
③いじめなどの権利侵害があった場合の対応が決められているか
④安心や安全、自由であることが保証されているか
多くのフリースクールでは、運営に対して子どもたちの意見を取り入れられるような仕組みにしています。私たちの団体も、「こどもミーティング」を週1回行なっています。その場では、修学旅行などの行事からあらゆる事業まで、子どもたちの意見を取り入れながら決められます。例えば、予算が足りないことが発覚した時には、「一緒にお金を稼ごう!」といった企画につながることもあります。子どもたちが考えながら学びを作っていくのが、フリスクールの良さだと思っています。
フリースクールに通うと、こうした子ども同士で話し合うミーティングが頻繁に開かれるのでよく話すようになります。そのためか、「フリースクールに通う子は不登校っぽくないよね」といわれます。「不登校の子どもらしい」というイメージにも異論を感じるのですが、おそらく、多くの大人は、おとなしくて、自分の意見を言わない子が不登校の子どもだと思っているのではないでしょうか。しかし、実際は活発にコミュニケーションを取る子になっていくことが多いんです。
フリースクールでは、5つの力や土台が養われると考えています。
・観察する力
・思考する力
・コミュニケーションする力
人と一緒に何かを作っていく経験を積んでいくので、コミュニケーション力がついていきます。
・ネガティブケーパビリティ
正しいか間違っているかなどがはっきりしていない課題は社会にたくさんあります。例えば、将来自分がどんな仕事につくかなどは大切な問題ですが、すぐに決定できることではありません。そうした課題をずっと引き受け続けられる力はすごく重要だと考えています。
・自己発見と肯定感
絶対否定をしないということは、フリースクールスタッフの原則にしています。
※参考 フリースクール寺子屋方丈舎における学びの全体像
フリースクールを構成する要素を1から8まで挙げています。
①子どもミーティング
②プログラム
③保護者相談機能
保護者から理解を得ることがとても重要です。
④スタッフミーティング
スタッフ同士で人材を育成し合う仕組みが大事。
⑤関係機関
学校との連携会議を学期に1回大なうなど、連携を重視しています。
⑥協力者
⑦他団体・フリースクール
⑧周知・広報活動
続いて、フリースクールが行っていることを「定数」と「変数」で分けてピックアップしています。「定数」とは、変えない、普遍的な姿勢です。「変数」とは、その場の状況や子どもの個性によって変化させることです。
<定数>
・観察する
子どもを否定せずに信頼する
・変化を待つ
<変数>
・子どもへの適切な声かけ
その子の状態に応じて声かけを変えていきます。
・相談する
・一緒に遊ぶ・つくる・ 学ぶように誘う
平等とは、一律に同じように子どもと接することではないと思っています。子どもたちによって対応を変えるのも、十分に平等だといえるでしょう。
【問題意識2】フリースクールが抱える課題
フリースクールにおける問題を6つ挙げています。1つ目は、どこにフリースクールがあるのかなど基本的な情報が不登校の児童生徒に伝えられていないという発信力の問題です。フリースクールが利用できる環境にない子どもは、4割にも及ぶという調査データもあります。フリースクールは都市型なので、大きい町には複数ありますが、全てのエリアに満遍なく存在するわけではありません。
2つ目は、不登校当事者の不安や学習の相談窓口の提供が十分になされていないという点。3つ目は、「フリースクールに通うとどうなるのか」という疑問に答えられていないということ。4つ目は、フリースクールは子どもたちのニーズに合っているのかという点。これだけ不登校の子どもたちが多い中で、フリースクールの利用者は8000人から1万の間といわれています。今後もあり方の見直しを続けていく必要があると思います。5つ目は、フリースクールの多くは不登校の子どもに特化しすぎているため、公共育以外の学びを必要としてる子どもに対して具体的なコンテンツが提供できていないということです。
そして、最後の6つ目。近年課題として指摘されている子どもの貧困を考えた時に、 経済的な負担ができずにフリースクールに通えない子がいるという点です。全国のフリースクールの利用費の平均は月3万3000円といわれていますが、その負担が難しいご家庭の問題に対して私たちはまだ十分に応えることができていません。
フリースクールのあり方として重視していること
私たちのフリースクールでは、自分に必要な学びのプログラムは自分で決めることとしています。例えば、数学が苦手であれば、後で勉強することにしてもいいですし、そもそも教科学習自体が自分にとってはまだはやいと思ったら後回しにしてもいいと伝えています。自分ができるところからやっていくことを大事にしているんです。正しい・間違っているといったジャッチではなく、対話を通じて学んでいくことを大事にしています。得意な子は、苦手な子に教え、年上の子が年下の子に教えるという関係性の中での学びもすごく大事にしています。そして、こうした子ども同士のつながりから、自信が回復していくということを感じています。
フリースクールには、子どもがどんな学びを作っていきたいかを理解して子どもとつながっていくような支援ができる存在が必要だと考えています。過去の嫌な経験を修復しながら一緒に成長していくことがすごく大事なのです。そして、フリースクールとつながり続けた結果、最終的に18歳で高卒の資格を取って進学や就職につなげいければいいのではないでしょうか。
保護者の中には、自分が大人になっているので、子どもの成長を単線的で、合理的なものとしてイメージしている方が多いように感じます。しかし、子どもたちの成長は、曲線を描いていることがほとんどです。子どもには独自の行動原則があり、何かをしながら将来や目標について考えているようなことも多いものです。競争や「やるべき論」を大人に強いられて、ストレスを抱える子どもも多いのです。どんなにウネウネと曲がりくねった成長曲線を描いていたとしても、最終的に帳尻を合わせてくる子どもはすごく多いと感じています。
不登校の2次被害
不登校の2次被害は大きな課題です。例えば、大人が「学校にいかなかったら 大変なことになるよ」「将来のために頑張った方がいいよ」といったことを伝えてしまうこと。
また、保護者が子どもの選択を容認できず、すぐに心の問題と決めつけて医療機関に連れていくようなケースもあります。医療機関との連携が必要な場合もありますが、不登校はそうした子どもたちばかりではありません。また、過度に自分の育て方に問題を感じて、落ち込んでしまうような保護者もいます。
子ども自身も、学校に行けない自分を責めているものです。私自身も学校に行かなくなった当時は1年間引きこもりました。これは、社会の中に不登校という生き方を責めざるを得ない価値観がまだ残っているということだと思います。この状況は、私が引きこもった何十年前から変わっていないように感じます。
結果的に、多くの不登校への対応が、対症療法になってしまっていることは大きな問題だと思います。
COCOLOプラン
文科省から「誰一人とり残されない学びの保障に向けた不登校対策」として「COCOLOプラン」が出されました。目指す姿として3つ掲げられており、1つ目は「不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整えます」、2つ目は「心の小さなSOSを見逃さず、『チーム学校』で支援します」、そして3つ目が「学校の風土の『見える化』を通じて、学校を『みんなが安心して学べる』場所にします」です。学校には隠れたカリキュラムと呼ばれるものがありますが、それらをオープンにしていくことにも踏み込んでいます。
(文科省「COCOLOプラン」)
https://www.mext.go.jp/content/20230418-mxt_jidou02-000028870-cc.pdf
不登校の対応では、一人で悩みを抱え込まないようにすることが非常に重要です。しかし、これまでは非行の対応と同様に、教員と保護者との1対1対応が主流でした。今後は、不登校の保護者同士が横につながるような場作りをして、同じ悩みを抱えた者同士が寄り添い学び合うアプローチなども考えることができるのではないかと考えています。
私たちのフリースクールでも、保護者同士がつながる月1回の「親の会」を設けています。子どもたちが自信を取り戻し自発的に変化していくためには、土台となる保護者のマインドが非常に重要になります。保護者同士で経験や不安を共有し、自身の気持ちに気づき、不安が小さくなっていことで、子どもも元気を取り戻していきます。
下記の図に学校とフリースクールの思考の違いをまとめました。フリースクールは、横につながって対話を通じて学び合うことをとても大切にしています。子ども同士も保護者同士のつながりも、その一つです。こうした横のつながりの結果、集合知をつくり、幸せを目指していくのです。
フリースクール後の進路
現在の社会において、高校卒業後の進路は、大学進学57%、専門学校進学21.4%、就職15.4%となっています。高校進学後に就職する子は圧倒的に少ない社会状況になっています。一方で、地元企業の多くは若者を欲しています。こうした社会的なニーズもあり、私たちのフリースクールから就職の進路を選ぶ子は33%で進学する子とほぼ同じぐらいなっています。これは決して福島県だけのことではなく、全国的な傾向となっています。私はフリースクールの子どもたちが将来地域の担い手になっていく可能性を秘めているのではないかと考えています。
昨年行った『フリースクール白書』の調査では、「フリースクールが子どもから信頼されている」という状況が見えてきました。手前味噌な部分もあるのですが、85%以上の子どもが、「話しやすい」「優しい」「対等につきあってくれる」「おもしろい」「強制しない」といったイメージをフリースクールに持っています。
なお、フリースクールに通い始めたきっかけを見ると、約80%が親からの紹介です。子どもたちの学び場を探し、経済的な負担をができる家庭であればフリースクールにつながれます。しかし、そうでない場合、子どもはどこにも辿り着けない危険性があるという見方もできるのです。
全国の先進事例
千葉県では、県教委と県議会で 学校外の多様な学びを実現するという条例を作り、学校とともにフリースクールを訪問するなどの勉強会を実施しています。そうすることで、学校の先生もフリースクールへの理解が進んだり、学校側の課題をフリースクールがわかるようになったりという環境が生まれていきます。結果、フリースクールで学ぶ子どもたちがどんどん認められていく状況となっています。
つくば市では教育センター(適応指導教室)を、NPOと企業へ完全民間委託しました。さらに、フリースクールの通所助成を今年からスタート。2万円をサポートし、どこのフリースクールに通うかは本人の選択に任せています。さらに、行政では「学び推進課」を編成し、学校出身者と一般行政の職員を入れた組織を作っています。加えて、場合によっては民間の方も関わることとしています。
地域連携を進めて子どもを支える
フリースクールやスクールソーシャルワーカーが青森県には少ないと聞いています。誰が不登校の子どもを支えているのかというと、定時制高校や通信制高校です。それを十分活用する視点もよいと思いつつ、学び直しのサポートや民間と連携した就労支援、保護者同士がつながる場作りなどの整備を進めていくことは重要かと思います。
そして、「問題意識1」でお伝えしたように、どこにもつながれない子をどうサポートしていくかという課題に向けた対策も必要です。その役割の担い手として、スクールソーシャルワーカーのように横につなぐ存在は欠かせないのではないかと考えています。たとえ居場所ができたとしても利用者が少ないという状況が生まれる可能性もあるので、マッチングしていくような職能を持った人は重要です。
福祉の現場では「ケース会議」を頻繁に行っています。例えば、その子にとって最適な学びの場は、フリースクールなのか学校なのか、あるいは一時的に自宅で休むことなのかを検討していく。子どもに応じたケースワークができれば、どこにもつながれないという子どもを減らせると考えています。こうしたことを、青森県で試行できるといいですよね。
前提として重要なことは、教育委員会が「自分たちで不登校の問題をなんとかしよう」という囲い込みから解き放たれることです。「民間と学校とで自由に行き来していいよ」といった流動性、連携の幅をどんどん広げていくことで垣根のある現状も変わっていくのではないかと思います。
仮称ですが、「チームこども」と銘打って、フリースクール全国ネットワークで、「ケース会議」を実施して、官民や子ども食堂、冒険遊び場・学童などを横につないでいけないかと構想しています。こうしたつながりによって、子どもや保護者の居場所を広げていくことができます。3年程でアウトカムを出せるよう、全国でいくつかの事例作りに挑戦したいと思っているところです。
下記の図をご覧ください。人間の器が青だとすると、悩みが黄色です。人間が成長すると、悩みが相対的に小さくなっていきます。様々なことを考えたり悩んだりすることは、ある種、若さの特権です。彼らが成長して器が広がっていけば、内部に抱えた困難は相対的に小さくなっていきます。これには時間が必要です。その時間を過ごすのは、その子に合っていれば、定時制高校という道もあるでしょうし、フリースクールもよいでしょう。しかし、確実にその成長の時間を保証していかなけれればいけないことは確かです。
「学校に行けない自分には能力がない」と思っている子どもが、フリースクールなどの居場所につながって、「学校に行っていないからこんなことができた」「こういうことが体験できた」「この人とつながれた」という視点の移動ができるといいなと私たちは思っています。同じ視点からしかモノを見ていないと、どんどん苦しくなっていきます。保護者は「うちの子はずっと家にいて、ゲームばかりしている」と苦しんでいますが、それは「ゲームをしている時間は学んでいない」と思っているからです。でも、子どもはすべての時間で考えているし、将来が気がかりな状態にいるのです。そして、苦しみの中から成長もしています。保護者が気づくことができないだけで、子どもたちは時間を保証されれば十分に成長していくことができるのです。
まとめ
自分で決める力や当事者性をいかに伸ばすか。まさに、人間中心で考える学びが大切だと考えています。不登校の子どもたちも、当事者性を持って考えることを学べばどんどん成長していきます。自分の適切な学びの場につながり、本人の意見がしっかり聞かれるようになれば、成長していくことができるのです。
そのためには、「学ぶこと」と「生きること」をつなげる教育の再構築が必要です。学びながら生きる、生きながら学ぶのです。例えば、地域の一員として学ぶ機会が用意されていることで子どもたちは成長していくと思うのです。
こども家庭庁でも、全国に学校外の子どもたちの居場所作りを広げていくと示しています。青森県で何らかの試行錯誤をして、議論を前進していけるといいのではないでしょうか。
委員による意見交換(敬称略)
■スクールソーシャルワーカーの状況
青森県のスクールソーシャルワーカーはどういった状況でしょうか?(副議長 森万喜子)
→スクールソーシャルワーカー配置状況:小・中学校23名、県立学校9名
スクールソーシャルワーカーに関しては、数の課題もありますが、待遇の問題も大きいです。スクールソーシャルワーカーの仕事だけでは食っていけない状況にあると聞きました。色々な仕事を掛け持ちをしながら働いていることが多いということが見えてきています。(議長 大谷真樹)
青森県のスクールソーシャルワーカーに聞いたところ、社会福祉士出身の方が半分、引退した学校の先生が半分程で成り立っているということでした。研修がうまく行き届いていないという課題や、待遇の問題も指摘されています。(フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥)
■つながりが断たれてしまう状況
義務教育段階や高校段階までフリースクールに通っていれば、子どもの状況を把握していくことができます。しかし、高校段階後に不登校になり学校を辞めてしまった場合や、義務教育段階からどこにもつながることができずに高校の学齢以上になってしまった場合には誰にも把握ができません。つながりが切れた子が生まれてしまう。そうすると、行政もサポートのしようがなくなってしまうのではないかと感じています。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)
おっしゃる通り、高校年齢になってしまうと把握できてない状況になってしまうため、これはすごく大きな問題だと思っています。状況をリサーチしていくことと、どう居場所につなげていくかをセットで検討していく必要があります。(フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥)
■現在の学校教育を根底から問い直す
学校に行かない子どもが問題化されているのは東アジア型といわれていて、中国や韓国でも社会課題とされています。いずれも、受験競争が厳しいエリアだという共通項があります。 ヨーロッパの場合は全体の1割ぐらいは公教育に合わない子どもたちがいると、ある種受け止められています。日本にもやはり10%ぐらいは、そういった潜在層がいるのかもしれないとも考えています。(フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥)
私自身も不登校を経験し、大検で大学に進んでいます。私の時代はフリースクールもない時代だったので、独学で学んでいきました。帰国生だったのですが、日本の学校の集団生活が嫌でしたし、学校の先生も好きになれず、結果行かなくても何の問題もなかった。むしろ、私の場合は自宅で勉強した方が自分のペースで効率的に学ぶことができました。今でも不登校というと、「落ちこぼれ」や「問題児」という扱いをされてしまうケースがあると思うんです。でも、不登校を経験した後にユニークに活躍してる人もたくさんいるので、むしろエリートのように見せるという方法もあるのではないかと思いました。イメージを変えていくことから見直していかないといけません。日本の教育は特殊だと感じるので、「そこにはまれる人が一般的だ」と見る社会はおかしいんだと思うんです。(デジタルハリウッド大学教授 橋本大也)
学校はフリースクールになってはまずいんですか、と僕は思うんです。フリースクールの学びで子どもたちが生かされるのならば、学校そのものが変わらなければいけないということではないでしょうか。それこそが、根本治療になってくると思います。学校というシステムが馴染まない子が増えているのだとしたら、根本的に変わらなければいけないという視点を我々は持つべきだと考えています。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)
私も全く同じ考え方です。社会の中で、月3万円払えないご家庭や情報を取れないご家庭など、フリースクールにつながれないケースは確実にあるんです。だから、みんなが通うことができる学校が変わらなければダメだと思うんです。先日聞いたお話がしっくりきたので紹介しますね。健康な人が、寿司屋に入って具合が悪くなりましたといったら、普通は「寿司屋が悪い」と考えますよね。でも、学校への適用の場合には、不登校になると、子どもに原因があるのではないかという論調になる。飲食店でいえば、「食べに行ったお客さんが悪いんじゃないの?」といっているようなものです。シンプルに考えて、その場所に行って調子が悪くなったのであれば、そこに問題があるのではないでしょうか。(副議長 森万喜子)
■DXによる学びの保障の可能性
青森県の定時制高校の4割程は不登校を経験し、学びの空白を持った状態で入学してくる子も多いです。小学校高学年から中学校初期段階の学習が抜けている状態のため、高校のカリキュラムで非常に苦しんでいる現状があります。こうした生徒たちに対して、先生方はすごく一生懸命に支援して教えています。はるかに全日制の方が教えやすいと感じるほど、幅広い学力層の生徒が定時制にはいます。教員の力量が問われるんです。教員の懸命な支援の中でも、例えば、小学校の小数の割り算などのレベルを飛ばしている子はなかなか学びが積み上がりにくい。そうした場合にはDXを補助教材として入れて、個別最適な学びを作っていくことも必要ではないかと考えています。こうした子たちは、「今こそ学びたい」と思っているにも関わらず、根っこがなくて苦しんでしまう。彼らの一生懸命を応援する仕組みが必要ではないかと考えています。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)
不登校により学びの空白ができたために、授業に復帰できない問題は学校現場でも耳にします。先日、県内の北斗高校を訪問した際に、タブレットにすららネットなどの学習ツールを入れて、学び直しができたり何回も繰り返し学べたりする仕組みを作っていきたいとおっしゃっていました。先生は、生徒の学びの空白に対して個別に対応するのではなくて、タブレットを活かしながら、寄り添って伴走して励ます役割に移行していく。これが求められる姿ではないかと思っています。そうすれば、個別最適な学びの実現にもつながり、先生方の負荷も低減します。これは定時制や通信制に限ったことではなく、様々な学校で展開できる取り組みだと考えています。(議長 大谷真樹)
タブレットの持ち帰りについては、地域や学校によって大きな格差が生まれています。持ち帰りできない理由はいくつか挙げられるのですが、「wi-fiモデルのタブレットを使っているため、家庭にWi-Fiが整備されていないので使えない」ということは大きいです。そうした家庭にはモバイルルータを貸し出している自治体もあります。また、「自宅でどのような情報にアクセスするかわからない」という不安や、「家庭学習でどう使わせればいいかわからない」という懸念もあります。そのあたりの環境や意識の違いによって、格差が生み出されているのではないかと思います。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)
端末の持ち帰りと関係しますが、ある種、知的好奇心は禁断の知識を垣間見たいというところから始まると思うんです。昔は、インターネットもプログラミングもその一つだったんです。ギリギリのラインで情報を垣間見る楽しさが新たな学びにつながっていくのではないでしょうか。端末を持ち帰って、自分の好きなことを調べることに対して、大人は不安を感じるかもしれませんが、それくらいの自由を与えないと知的好奇心を原動力にして学んでいくことはできないのではないでしょうか。(デジタルハリウッド大学教授 橋本大也)
子どもの学習データに紐づいて、習得に向けて適切な内容が提示されるようなデジタル整備はなされてきています。ただ、生成AIが登場して、子どもたちの探究学習にも入っていける余地があるのではないかと気付かされました。出題するといった単純な関わり方だけでなく、ファシリテートして思考を促したり、コーチングをしたり、アイデア出しをサポートしたりすることも可能になるので、個別最適な学習のレベルをぐっと上げていける。2023年にはそんな可能性が見えた年でした。青森県の学校の中で、ユースケースを作っていく挑戦をご一緒したいとも思っています。子どもたちのやる気がぐっと上がるのは、自分が作りたいものを作る時です。その時に、興味が生まれて、自立学習へのエンジンを手に入れていくことができる。そうした意味で、子どもたちのそれぞれの学びをより発展できるのではないかと考えています。(ライフイズテック取締役、最高AI教育責任者(CEAIO) 讃井廉智)
おわりに(大谷真樹議長)
宮下知事から発表がありましたが、青森県で春からこども家庭部ができます。そこでCOCOLOプランなどに沿った施策が行われていきます。これまでフリースクールはどこの管轄かという議論があったのですが、こども家庭部ができることで、教育委員会との連携なども実現しやすくなるのではないかと考えています。
江川さんからご紹介いただいた先行事例の情報などは非常に有益ですね。県内において、フリースクールに対する理解はまだまだ広がっていないように思います。本会議のミッションとして、引き続き情報を提供していくことが重要だと考えています。