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令和6年度 【第2回】青森県教育改革有識者会議レポート

2024年4月22日に、第2回青森県教育改革有識者会議が開催されました。本会議の前半は、青森県立高等学校魅力づくり検討会議の検討状況等について、同会議事務局から報告していただきました。続いて、(株)Prima Pinguino代表取締役、産業能率大学経営学部教授で本会議の常任委員である藤岡慎二様に講演していただき、その後、委員による意見交換が行われました。

▼第2回会議はこちらの動画でご覧いただけます▼
本記事では内容を一部抜粋して掲載しておりますので、ノーカットでご覧いただける動画も併せてご活用ください。


青森県立高等学校魅力づくり検討会議事務局 報告(高等学校教育改革推進室 佐藤室長)

本日は、①県立高等学校教育改革の取組、②青森県立高等学校魅力づくり検討会議の概要、③学校・学科の充実の方向性(第1分科会報告)、④学校配置の方向性(第2分科会検討状況等)の4点についてご説明させていただきます。

県立高等学校教育改革の取組

中学校卒業者数と高校進学率の推移についてです。 昭和41年をピークに中学校卒業者数は減少する一方、高校進学率は増加し、現在は99%を超えています。

県立高等学校教育計画実施計画の変遷としては、平成9年から10年度に実施した青森県立高等学校教育改革推進検討会議からの報告を踏まえ、平成12年度から第1次実施計画、第2次実施計画に取り組み、 平成18年から19年度に実施した高等学校グランドデザイン会議からの答申を踏まえ、 平成21年度から第3次実施計画前期・後期に取り組みました。

その後、平成26年、27年度に実施した青森県立高等学校将来構想検討会議からの答申を踏まえ、 平成30年度からおおむね10年間を期間とする基本方針と、その基本方針に基づく具体的な取り組みを示す第1期・第2期実施計画を策定、現在は第2期実施計画に取り組んでいます。

第2期実施計画策定推進では、①充実した教育環境の整備、②各地域の実情への配慮、③魅力ある高校づくりのさらなる推進の3点に取り組むこととしています。

令和6年4月1日現在の県立高校の配置状況は下記の図の通りです。以下の6地区ごとに高校を配置し、また高校教育を受ける機会を確保するために鯵ヶ沢高校、六ヶ所高校、大間高校、三戸高校の4校の地域校を配置しています。

続きまして、県立高等学校の設置状況をお伝えします。令和6年度は、全日制課程は普通科の他、理数科、グローバル探究科、スポーツ科学科、表現科がございます。職業教育を主とする専門学科として、農業科、工業科、水産科、商業科、家庭科、看護科、総合学科を設置しています。また、定時制課程には、午前・午後・夜間の3部制の高校と夜間のみの高校があります。通信制課程は、定時制課程の高校に併設しています。

令和6年度県立高等学校全日制募集学級別一覧です。社会の変化に対応しながら高校教育を受ける機会を確保するとともに、これからの時代に求められる力を身につけることができる教育環境を整備するため、 計画的な学校配置を行っています。

基本方針では、学校規模の標準を4学級以上としています。 それを満たさない高校のうち、募集停止等により高校への通学が困難な地域が新たに生じることとなる高校については、地域における通学状況を考慮して配置することとしています。現在は、先ほどご説明した4校が地域校となっています。(地域校の基準等は下記のスライドを参照。)

下記の図は、県全体の中学校卒業者数の推移を表したものです。現在取り組んでいる第2期実施計画の最終年である令和9年度の中学校卒業予定者数が約9,200人に対して、10年後の令和19年度は約6,400人となることが見込まれています。

青森県立高等学校魅力づくり検討会議概要

組織構成は下記の図の通りです。変化し続ける社会に対応するために必要となる力を身につけ、未来を切り開き、豊かな人生を送るとともに、持続可能な社会のつくり手となれる人材の育成を目指しています。そのため、必要となる力と高校段階で育成すべき資質能力を整理するとともに、本県高校教育に求められることや魅力ある県立高校のあり方について、基本的な考え方を整理した上で、第1分科会で調査検討し、方向性を取りまとめ、現在は第2分科会において検討を進めている状況です。

調査検討を進めるにあたっては、中高生とその保護者、教員、市町村教育委員会、企業を対象に高等学校教育に関する意識調査を行い、高校長協会、小学校長会、中学校長会への意見聴取を行いました。 さらに、地区部会や県民からの意見をいただきながら検討を深め、令和7年2月頃に結果を報告いただくこととしています。

学校学科の充実の方向性(第1分科会報告)

下記の資料から報告がなされました。ご参照ください。

資料 青森県立高等学校魅力づくり検討会議第1分科会(令和6年2月28日)

学校配置の方向性(第2分科会検討状況等)

今後、中学校卒業者数のさらなる減少が見込まれる中で、生徒1人1人に充実した教育環境を提供するための学校配置の方向性について検討することとしています。また、学校配置の方向性の検討にあたって、「高等学校教育を身につける機会の確保、」「充実した教育環境の整備」の2つの視点により検討することとしております。

地区ごとの学校配置、学校規模、高校間連携、学級編成、定時制・通信制課程の配置、再編の方法について、これまでの取組の検証も含めた検討を進めます。また、小規模校の配置、募集停止等の基準、 地域校の活性化、ICTの活用等、通学手段の確保・通学支援などについてと、「学校配置と併せて検討すべき事項」も検討が進められています。

今後、第2分科会では各検討事項の整理にあたって視点を踏まえながら、資料を作ってまいります。その後、地区部会の実施を通して、各地区の意見等を踏まえながら、学校配置の方向性整理案として作成することとしています。

藤岡慎二常任委員(産業能率大学経営学部教授)講演〜全国に拡がる高校魅力化プロジェクト〜

【プロフィール】
藤岡慎二(ふじおか・しんじ)
北陸大学経済経営学部教授を経て、産業能率大学経営学部教授に。株式会社Prima Pinguino 代表取締役。
専攻は、地域活性化(地域経済政策、リバースイノベーション、人材育成、地域経営)、経営戦略、組織戦略、起業家育成、リーダーシップ、ソーシャルイノベーション。
他に、総務省地域力創造アドバイザー(2015年~)、内閣府地域活性化伝道師(2022年〜)、OECD日本イノベーション教育ネットワーク連携研究員(2017年~)、福井県高校問題協議会会長(2019年~2020年)、愛媛県県立学校振興計画検討委員(2020年~)、軽井沢高等学校魅力化検討委員会(2019年~2020年)、文科省・東京都庁の各種委員などを歴任。

高校魅力化について

高校魅力化により生まれた還流

高校魅力化プロジェクトは島根県の隠岐島前高校で始まり、いまや全国に広がってます。現在、このプロジェクトにおいては、教育に思いがある市町村が地域の高校を支援しているパターンが多いです。これまでも市町村が制服代や交通費などを支援するケースはありましたが、現在では人を配置したり町と高校とで教育内容を考えたりという協働が進んでいます。高校魅力化プロジェクトは、県ではなく、市町村が自主的に高校を支援して、その後、県がサポートをするというステップがほとんどなのです。

高校魅力化プロジェクトが始まって14、5年経ち、今はどのようなことが起きているかを紹介します。隠岐島前高校を卒業後、もちろん国内外で活躍している生徒もたくさんいるのですが、最近では地域に還流し始めている現象が見えてきています。

川本息生君は、高校から慶應義塾大学のSFCに入学し、2年目で起業して、卒業。すぐに地域に帰ってきて、実家の畜産業を最新のICTと経営学を駆使してスマートファームにしたいと考えて、docomoと実証実験を進めています。彼は、起業家であり地域を支える政治家にもなっています。他にも、役場職員、経営者、郵便局員、教員になって帰ってきた卒業生もいます。また、他エリアでもこうした傾向が見え始めています。

離島・中山間地域の高校が置かれた現状

少子化による、高校減少は全国で起きています。平成30年の時点で公立高校は3473校。現在ではもう少し減っているかもしれません。これらの高校が1年間35校統廃合されています。

以前の隠岐島前高校は、入学者が3分の1となり、保護者や先生、生徒も、行かせたくないし、行きたくないし、「この高校はなぜあるんだ」といった声もあがるような学校でした。

広島県の大崎海星高校は、以前は大崎上島町内からの進学率は36%。 離島ですがフェリーが30分に1本あり、乗船時間も30分程度なのでどんどん他のエリアの高校に出ていくという状況がありました。その結果、入学者が17人になり、存続困難で5年後にはなくなるといわれました。

長野県の白馬高校も、3学年で160人在籍していないといけなところ、入学者が50名となり、基準を下回ってしまいました。愛媛県立弓削高校も平成27年には入学者が激減して16人になってしまい、待ったなしという状況でした。さらに、愛媛県三崎高校も入学者数が大きく減少。基準となる41名を下回ってしまいました。こうした状況が、日本中、特に離島中山間地域では多く起きています。

地域に高校がなくなるとどうなるのか

では、高校が地域なくなったらどうなるのか。下記は離島のデータですが、「病院のある・なし」は人口減少率の差0.2%ですが、「高校のある・なし」は10%の差があることがわかります。実は高校があることは人口減少の歯止めになっているということがわかってきています。

では、中山間地域はどうかというと、高校通学困難な地域からは出てしまう傾向があるということがわかっています。地域を出る理由の第2位が学校までの距離であることが明らかになっています。

現在、地方に住みたいという若者が出てきていますが、「子どもの教育環境が整っていること」を条件に挙げていたり、地方に移住する理由を「子どもを育てる教育環境を変えたい」という思いを持っていたりする傾向が見えています。移住・定住の理由にも、教育が入り始めているということが言えると思います。昨年の統一地方選あたりから、だんだんと教育のことを言い始める政治家が増えてきたという印象もあります。特に女性は、移住において子育てに必要な保育・教育環境の重要性を第2位に挙げています。

また、高校がある島・ない島とでは、U Iターンに20倍もの差が出ています。高校がない島には帰ってこない状況があり、もっというと小中学校の場合はさらに顕著でしょう。これは離島の状況ではありますが、たとえ陸続きだったとしても、割合が逆転するようなことは考えにくいはずです。

加えて、医師が地方に行かない理由の第1位は「子どもの教育」なんです。つまり、教育は地域の命に関わる問題といえます。

高校があることによる経済効果を計算しました。石川県能登町の能登高校を例に分析しています。能登高校は2011年に統廃合の危機にありましたが、結果的に存続がなされました。もし、2011年の時点でなくなっていたら、能登町の人口はどうなっていたかと試算すると、1563人の減少が起きていただろうという数値が出ました。これは、2018年だけでみても経済的な損失は21億円に上ります。また、8年間の累計でいえば、80億円の損失といえます。

また、2011年に高校が残ったとしても、魅力化されていなかった場合にはどうなっていたかも計算した結果、561人が地域を出ていっただろうという結果が出ました。

高校魅力化プロジェクトは、教育のみならず、地域の人口減少対策、医療、経済、子育て者のUIターンなどにも影響を与える側面があるのです。そのため、首長部局や教育委員会など地域総掛かりで取り組むべきことだといえます。

高校魅力化プロジェクトを進めた結果

高校魅力化プロジェクトの結果どうなったか。各校の状況を報告します。隠岐島前高校は有名ですよね。V字回復を果たして、 今は推薦入試でいうと日本で1番倍率がある高校になっていると思います。全国だけでなく世界からも生徒が集まっています。生徒増、学級増、教職員増、部活動増。新入生の半分ぐらいが島外から入学し、大学進学率も60%になりました。進学率が上がることが重要なのではなく、高校生が諦めずに限界に挑戦するようになったということがポイントだと考えています。

大崎海星高校も統廃合を免れて、大崎町内からの進学率が36%から62%になりました。長野県の白馬高校もどんどん入学者が増えて、長野県の教育政策が変わるきっかけにもなったと県の教育委員会の方に聞きました。愛媛県の弓削高校も三崎高校も入学者が増加しています。

では、地域の子どもが減っているのに、なぜこれらの高校では生徒が増えてるかというと、地元の子どもから選ばれる高校になっているのと同時に、「地域みらい留学」で都市部からくる生徒が増えているということが挙げられます。

私たちが関わらせていただいている高校も、北は北海道、南は沖縄まであり、今、教育を通じた地域の活性化策として日本中で認識され始めていると感じています。ただ、東北がまだまだ少ないのが現状です。

小規模公立校の置かれた厳しさ

ただし、小規模公立校においては厳しい状況があることも事実です。校長先生は2、3年で異動しますし、先生も最長4、5年です。しかも、通いにくいエリアの場合には単身赴任で来られている先生も多く、心理的な負担を抱えていらっしゃいます。生徒が減ると学校に関わる大人の数が減らされ、実習助手の不在、図書館司書の不在といったことが起き、専門科目以外を教えて進学に不利、物理が履修できないなどといったことも生じていました。校務分掌は大規模校と同じだけあるので、少人数でそれにあたらなければならず、先生方は超多忙な状況です。

下記の図は、数学の偏差値の分布です。一般的には、進学校・進路多様校・基礎校とそれぞれの習熟度に合わせた学びを行っているはずです。しかし、離島の高校では、オレンジの部分のような状態になります。すなわち、成績がいい子もそうでない子も一緒にいるという状態になるのです。高校の先生方は、こうした状況に合わせて一人一人丁寧に指導をしているのですが、地元からは全入だから低学力の子が多いのではないかという評判が立ってしまいがちです。それにより、さらに人が都会に出てしまうブライト・フライトという現象が起きます。また、幅広い学力の生徒に応じられる教員数や放課後の民間教育の充実が果たせず、教育困難地域になってしまいがちな状況もありました。

高校魅力化プロジェクトの施策

こうした背景において、高校魅力化プロジェクトは何をしてきたかというと、そもそもコンセプトを「存続」に置いてはきませんでした。「存続」を目指す学校には誰も行きたがりません。存続はあくまで結果です。生徒が「行きたい」、保護者が「行かせたい」、地域も「活かしたい」と思う三方良しの「魅力」づくりを目指すことが重要なのです。高校生の学校生活が充実すれば地域から認められる高校になっていきます。それが回り回って地域が認められるようになっていくのです。

高校魅力化プロジェクトの施策はたくさんありますが、今回は全部お伝えしきれないので、大きく4本柱にまとめました。「高校でのカリキュラム改革」「公営塾」「生徒の主体的な活動」「教育寮と全国募集」です。

■「高校でのカリキュラム改革」
「地方は遅れているのではないか」とよく聞かれますが、私は地方には世界最先端になるポテンシャルがあると思っています。地方は社会の縮図が凝縮されており、少子高齢化、人口減少、財政難の状況にあります。つまり、世界の最重要課題の最前線です。課題先進国日本というふうにいわれていますが、その中でも、日本の地方は課題先進地域です。ここでの取組は、実は世界切り開く力を持っているのではないかと思います。つまり、課題先進地域の地方の高校で学ぶことは、世界最先端になれる可能性があるのではないかと思うのです。

実際、一昨年、韓国の大統領府の委員会に呼ばれ、日本の地域活性化について話し、議論しました。昨年と今年はスペインで、少子高齢化や人口減少の問題について日本の施策にはすごく興味があるという議論になりました。地方を突き詰めると、世界とつながっていると感じます。そこにチャンスがあるのではないかと思うのです。

2010年から隠岐島前高校では探究学習を行ってきました。今ではすべての学校に広がっていますね。地域を元気にする探究学習やPBLを実施していると、生徒たちは「なんで勉強しているかわかるようになった」「答えがない問いに比べれば、答えがある問題はラク」と言うようになりました。中には、学校の中にずっといるために、勉強する意味がわからない子もいます。地域と連携することによって、学ぶ意義を見出していくことができるのです。

愛媛県立弓削高校では「総合的な探究の時間」で「しごとづくり学」という起業家育成をしています。「地域の課題を発見し、解決策を考えよう。そして、それを仕事にしよう」ということに取り組んでいます。3年間かけてどこでも仕事が作ることができる力を育てているのです。その結果、3年生は全員「こういう仕事をつくりたい」「この仕事に就きたい」と言って卒業していきます。

目指すのは、「村を捨てる学力ではなく、村を育てる学力」です。これまでも子どもたちは学校の先生や家族には感謝の念を抱いてきました。しかし、地域の人へ感謝する機会はあまりありませんでした。そうすると、村を捨てる学力になってしまうのではないかと思うんです。「地域の人に自分は育まれた」と思えるような実感が重要です。地域の人たちへの感謝の集大成が、愛郷心だと思うのです。

文化人類学者の川喜田二郎先生が、「『ふるさと』とは「子どもから大人になる途中で、子どもながらに全力傾注で創造的行為を行い、それをいくつか達成した、そういう成功体験を累積した場所だから『ふるさと』になったのだ」とおっしゃっています。ふるさとは生まれた土地ではないということです。すなわち、ふるさと感は中高の挑戦の達成によって形成されるといえるのではないでしょうか。そして、その形成がなされると、一度旅立ち戻ってくる「ブーメラン人材」に育っていくのだと考えています。

実際に、地域社会や地域の大人との関係性が多いほど定住意向が高まるという調査報告もあります。

他にも、県外居住者に尋ねた調査によると、高校時代までに「地元企業や地元にどんな仕事があるかを全く知らない場合」と「知っている場合」とでは、地域に戻りたい意向が約2倍も違うということが明らかになっています。地元企業が何をしているかを知ると、地元へ戻ることが選択肢に入るのです。そうした意味からも、高校と地域が関わることはとても重要だと思います。

■「公営塾」
公営塾は学校の敷地内に設置されていたり、教室中に置かれていたり、寮と一体化されていたりします。学力向上だけでなく、生徒たちが自身の目標発見や意欲向上につなげていく場となっていることが特徴です。隠岐島前の公営塾では「夢ゼミ」という放課後の探究学習の場を設けており、先ほど還流人材として紹介したスマートファームに打ち込んでいる彼はこのゼミで構想を練っていました。久米島の学習センターも同様に、勉強だけではなく、自分の目的意識を見つけたり様々な交流をしたりする場となっています。

■「生徒の主体的な活動」
放課後の充実という観点では、へき地の学校においては、人数の多い種目の部活動を実施することは難しい状況にあります。そこで弓削高校では「起業部」ができました。ここでの学びや活動が進路につながるケースも出てきています。

■「教育寮と全国募集」
「内を満たして、外から誘う」ことが重要です。そのためには、寮の機能が必要になります。寮という濃密な空間で、全国から来た友達と過ごすことができ、リーダーシップ、コミュニケーション能力、文化理解、非認知能力を育んでいくことにもつながります。注意点としては、安易に全国募集をすればいいということではないということです。地元の生徒が選ばない高校に全国から来るはずがありません。

教員の負担増にはしない高校魅力化施策

弓削高校の先生方は、最初は高校魅力化プロジェクトを実施することに怯えがあったそうです。しかし、進めていくうちに、生徒と教員の意識が変わっていき、いいものは受け入れていこうと転換していったといいます。今では、僕らのような外部の人材が地域に入り協働することで、相乗効果を発揮できたと語ってくれています。さらに、どの先生も学校から帰るのが早くなって、生徒たちの進学実績も伸びたと手応えを語ってくださっています。

高校魅力化はやり方を間違えると教員の負担増になってしまうので、変革の4アクションを大切にしています。改革はプラスオンで進んでいくと忙しくなってしまいます。だからまずは、「捨てる」こと。下記の例では、「教員による放課後の支援」を捨てました。そうすると先生の負担が減り、先生方が「では、学校の積み残した課題をどう解決するか考えよう」と自ら動き出し、自校の付加価値を作る動きが生まれました。つまり、何かを始めることは、なにか減らさなければいけないのです。教員の働き方改革と高校魅力化は両輪だと思っています。だからこそ、基礎自治体が様々なコーディネーターを派遣したり、公営塾を作って放課後学習を充実させたりといった教員の働き方改革にもつながるような施策が必要なのです。

教育の流れの転換

これまでの教育は過疎化や地方衰退を招く構造になっていました。これからの教育は、「魅力化」からスタートし、地域の作り手を育み、その地域・その学校ならではのブランド化を図り、若者・子どもが増えて、最終的には地域の魅力化、産業の創出、持続可能化につながっていくということを起こしていく必要があると考えています。

最近では学校を作る自治体も増えてきています。北海道大空高校は合併して学校を新しくできました。大空町の未来を考えて、そこからどんな人材が必要なのかをワークショップをして考えました。そして、空港がある町なので飛行機が身近なこともあり、「世界と地域をつなぐ大空で路を切り拓く飛行機人になる」というコンセプトを作成。内部エンジンを持って、自分の力で大空を飛行機のように飛び回ってほしいという思いが込められました。

また、大空高校では学力や偏差値以外の学びの目標を先生方全員で決めていきました。そういう力を育むためにはどんな教育活動が必要かを対話すると、「探究学習を頑張っていこう」「一方通行の授業ではなく対話型が必要だ」といった意見が出てきました。

大空高校は、時間割なし、定期試験なし、既存の校則なし、固定担任なし、体育祭なし(決めるのは生徒)、探究学習は通常の3倍、校長先生が和服(これはどうでもいいですね笑)、公設塾・公設寮を整備した学校となりました。設立1年目から倍率が上がり、現在4年目ですが1.2倍。北海道中から、 そして日本全国から希望者が集う、そんな高校になっています。

北海道では、教育庁が『地域創生に向けた高校魅力化の手引き』を作りました。その中で、地域と高校が一体となって協力をして、共通の目標に向かっていくことが示されています。教育庁が進んでこの方針を示したことで、北海道の高校魅力化は進んでいると感じます。

国内の15歳人口が減少しているのに、地域間で生徒を取り合って、今後どうなるのかという心配の声を耳にすることもあります。おそらく、 教育に力を入れない自治体・地域は衰退するだろうと思います。自治体として教育に力入れる地域に、高校生や若者が集まり、戻っていく。地域がどう考えるかで未来は変わっていくと思います。県立高校に対して、市町村が支援するモチベーションにはそうした背景があります。

「志を果たして、いつの日か、帰らん」、これは『ふるさと』の歌詞ですが、これを「志を果たし、いつの日か、帰らん」にしていくことを目指したいですよね。隠岐島前高校では卒業式の後にみんなで手をつないで歌うのだと聞いています。

地域活性化について

地方から都市部へどんどん人が移動していくのは日本だけのことではありません。世界中で起きています。毎週150万人が地方から都市部に移動しているといわれています。地方から都市部に人が移動する理由は「仕事がないから」となんとなく思われていますが、研究者のジェフリー・ウエスト氏はその移動の理由を立証しました。

都市部の規模が2倍になると、生活交通インフラの維持が15%ずつ軽減するそうです。そして、所得、資産、イノベーションは15%ずつ増えることが明らかになっています。

人口規模が2倍になると、インフラコストがどれくらいになるかを下記の通り図式化しました。普通に考えると、人口規模2倍になったらコストも2倍になると思いますよね。しかし、そうはならずに下ぶれる。黄色い分が余剰分になり、これをインフラの充実に回していけるようになります。規模の経済が成り立っているのです。

他にも、人口規模が2倍になると平均賃金からの賃金総量、専門家数、特許申請数、国内総生産(GDP)は2.15倍になることがわかっています。つまり、15パーセント上ぶれるのです。人口が増えると、アイデアが生まれやすく、それが利益にもつながり、所得にも還元される、ということが明らかになりました。

この2つの現象は無関係ではありません。人口規模が2倍になれば交通・生活インフラの維持コストが15%軽減するので、その分がアイデアの創出に回され、様々な挑戦につながり、個人の利益や所得に還元されることになります。

下記の図が、都市部に人が集まっていくモデルです。まず、チャンスと仕事を求めて人が都市部へ集まり、インフラ維持のコストが下がります。インフラが充実すると、人々は様々な活動ができるようになっていきます。そして、アイディアやイノベーションが生まれて、産業が栄え社会が豊かになっていく。それを見て、また人が集まっていくという循環が生じています。

一方、地方部は仕事とチャンスを求めて人が出ていくので、インフラ維持コストが上がります。電車の廃線・学校が廃校になるなどインフラが衰退し、人々は様々な活動ができにくくなっていきます。アイデアやイノベーションが生まれなくなり、産業が衰退し、より仕事やチャンスがなくなっていく。結果、人がさらに出ていくというサイクルになっています。

上記の2つのサイクルにより、ヒト・モノ・カネ・チエが地方から都市部に出ていってしまうということが指摘できます。これを食い止める方法を考えていく必要があります。

地方創生には、「人口減少の克服」と「地域経済の活性化」という2つの軸があります。

人口減少については、テクノロジーをフル活用することがポイントになります。自動運転やドローンといったものを駆使して、人口が少なくても生活に支障をきたさない、むしろ便利な地域をつくっていく。アバターやVR、メタバースを利用してオフィスに出勤するのは最低限にするといったことも考えられます。すなわち、地方部にこそデジタル人材が必要になってくるといえるでしょう。

地域経済の活性化については、外貨を獲得して、地域で回すということが重要です。地元の人向けの仕事やサービスももちろん必要ですが、外から外貨を入れる視点も欠かせません。

地域でどうやって外貨を稼ぐかを考えていく上でポイントになるのが、リバースイノベーションという考え方です。これまでイノベーションは先進国や都会で生まれて、それが新興国や途上国、地方に届けられていくと思われてきました。しかし、実は後進国の課題が山積みで、資源に制限があるという状態の方がイノベーションが生まれやすいということがわかってきています。例えば、世界中で貧困を解決して、ノーベル平和賞を受賞したマイクロクレジットはバングラデシュのダッカでスタートしています。また、魚群探知機は長崎県の小さな会社で生まれたものが世界中に広がっています。先述しましたが、高校魅力化プロジェクトも世界から注目を集める取組になりました。

リバースイノベーションを起こしていくことが重要であると考えた時に、スペインのサンセバスチャンの事例は参考になるように思います。サンセバスチャンは18万人しかいない「観光と食のまち」といわれてきた地域でした。サンセバスチャンの市長が「美食のまちは達成した。これからはプラスアルファを目指していく」と宣言し、現在では、食と観光の課題を解決するソリューションを産業にする試みがスタートしています。

リビングラボを作り、レストランでシェフやウェイターが直感的に解決してきた課題を行動観察し、その課題解決の仕組みをIT化しようという実験がスタートしています。具体的には、家電や調理器具にITシステムを搭載させ、サンセバスチャンブランドで販売するということが考えられているのです。

また、「食」を社会科学と自然科学からアプローチするという研究が大学と協働で進んでいます。さらに、タレントハウスをつくり、そこに世界中からタレントを集め、サンセバスチャン市の起業家と出会わせて、事業を推進しようとしています。サンセバスチャンは鎌倉市と同じくらいの規模の町ですが、そこで地域の課題解決からスタートアップを作り、それを世界に広げていこうという構想が進んでいるのです。

つまり、地方の社会課題にはチャンスがあります。人口減少、少子高齢化、財政難などに対するソリューションを、技術や政策、ナレッジなどで生み、地域でそれを実装して解決していく。実績が出たら、地方から世界へと売り出していく。そういったことができると、地方の産業の活性化にもつながっていきます。そして、地域高校としてはそうした課題解決をする力を育んでいくことが大切なのではないかと思っています。僕は産業と教育の結びつきをそんなふうに考えています。

リバースイノベーションの事例は日本でも登場しています。北海道出身で、東京で働いて、ハンターになりたいと北海道に戻った方の事例です。彼女は、実際にハンターになってみたら、稼げないということがわかったそうです。なぜかというと、「誰がジビエをほしがっているかわからないから」です。一方で、飲食店側は最近人気があるジビエがほしいと思いつつ、流通経路がないので「誰から買えばよいかわからない」という状態が生まれていました。

そこでハンターの方がプログラミングを勉強して、「Fant」というオンラインプラットホームを作りました。このプラットフォームで、飲食店はこのアプリに「来週までにカモ3羽」や「鹿肉 3キロ」といったことを注文。登録しているハンターがその分を撃って、食肉処理して、送るという仕組みができました。さらにいうと、農家から「うちの畑が鹿に食われて困っている」という情報がハンターに届き、そこで鹿を撃つような仕組みもできていきました。

つまり、農家、ハンター、 飲食店の三方良しが起きたのです。この仕組みをほしがる地域は、日本全国にあると思います。まさにこれが、リバースイノベーションだと思うのです。

地域で創造性を発揮できる環境を用意すると、クリエイティブ・クラスという、いわれたことをやるだけではなく、新しい価値を生み出す人材が集まってきたり育まれていったりするのではないかと思うのです。これが地方における希望になると思っています。


すでに、チャンスと挑戦を求めて、クリエイティブ・クラスが地方に行く現象は西粟倉村や神山町など他の地域でも起きています。インフラをDXして維持コストを下げて、最適化する。地域課題というネタがあるので、そこからアイデアやイノベーション、挑戦が生まれ、そして自治体の支援等々もあってスタートアップが誕生していきます。そうすると、チャンスと挑戦を求めて人が集まるのです。このサイクルをぐるぐる回すと、全員ではないですが、挑戦したいと思っている人は地域に帰ってくるようになるのではないかと思うんです。その結果、都市部と地方部の人材の最適化が図られると考えています。

「起業家のような人材をつくっていくと地域に帰ってこないのではないか」といわれることもあります。先ほど、「ふるさと」の定義とは、「子どもから大人になる途中で、子どもながらに全力傾注で創造的行為を行い、それをいくつか達成した、そういう成功体験を累積した場所だから『ふるさと』になったのだ」とお伝えしました。

「創業意識調査」において、創業を考えたことがなかった子たちが「創業しよう」と思った理由の多くは、「答えがない問いに対して時間をかけて探究していく活動がきっかけ」でした。課題先進国日本の課題先進地域の答えがない課題をじっくり時間かけて探究する体験を生む、つまり”全力傾注で創造的行為を行い、それをいくつか達成した、そういう成功体験を累積した場所”を作っていければ、子どもたちの「ふるさと感」醸成につながるのではないかと思います。起業家を育てたらどんどん外に出ていくのではないかということは、実は仕掛け次第によってそんなことはないということがいえるのです。

委員による意見交換(敬称略)

■”関わりしろ”を求めて生徒はやってくる

離島や中山間地域に全国から生徒が集まってくるということについて、彼らは何を求めているのでしょうか。(スパイスアップ・アカデミア代表取締役 森山達央)

一概にはいえませんが、まちづくりに関心があり、そして、まちづくりは未来づくりだという可能性を抱いて来るのではないでしょうか。都会の学校では勉強できないことが、課題先進国日本の課題先進地域の離島にはあるので、それを学びたいと感じているのだと思います。あとは、”関わりしろ”があるということ。都会では社会をつくるのは大人だと思われがちですが、地方部では高校生がプレイヤーとして挑戦できる環境がある。そうしたことは都会では体験できない。また、それを地域の先輩方が応援してくれる環境もあります。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

行動を起こす地域にいい人材がどんどん集まる時代になったのだなと感じました。また、藤岡さんがおっしゃったように、何もしない自治体はおそらく消えていくのだと思います。必死になって動き回って、思い切っている土地に、若い人たちはインターネットでは感じられない生の経験をしに集まっていきます。また、うまくいっている地域は年配の方々が「俺らが弾除けになってやる」といって、みんな血だらけになりながら若い子たちに好きなことやらせてあげています。一方、ダメなところは年配者が邪魔をする。自分たちの利権の話ばかりする。こうした傾向を変えていけば、地域は変わっていくのだろうということを改めて感じました。(活育財団共同代表 日野田直彦)

■高校魅力化プロジェクトがうまくいくポイント

おそらくサクセスストーリーだけではなく、厳しかったことや失敗したこともあると思います。基礎自治体と県の関係の中で、うまくいかないケースとはどんな場合でしょうか。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)

うまくいかないケースは、県と市町村とで押し付け合うような場合です。例えば、県がやる気になると市町村は「では、お任せしました」と引いてしまう。逆に、市町村がやる気になって頑張っていても、県が無関心だったり「県立高校なのでどうして関わるんだ」と主張したりするようなケースはうまくいかないと思います。

大切なことは、県も市町村も当事者として対話をしていくことです。最適解や絶対解を見つけようとするのではなく、納得解を導いていく。 こうした対話の姿勢が肝だと僕は思っています。市町村が率先してどんどん県を引っ張っていき、県はそれを様々な制度で支援するような関係性がよいのではないかと考えています。

また、小さい成功体験が積み重なると、だんだん良いリズムができていきます。例えば、全国から1人でも生徒が来てくれたら、「やっぱり、この地域いいんだな!」「自分たちの活動は間違っていない!」と自己肯定感が高まりますよね。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

CS(コミュニティスクール)マイスターの視点から発言すると、地域が温かいこと、それから男女差別といった差別がないことがとても重要だと思います。また、中学校の教員の視点では、治安がいいことが大事です。自分が中学時代にいじめられていた地域には絶対に帰りません。「戻ってきてほしい」と思うのであれば、本来そうしたところにまで踏み込んでいく必要があるんです。だから、地域の責任はすごく大きいですよね。よそ者嫌い、「黙って従順にいうことを聞いていればいいんだ」という人が多い地域にはイノベーションは起きないと思うんです。(副議長 森万喜子)

■教育×地域の取組の予算化の仕組み

隠岐島前高校は、海士町の町長が本気を出して、藤岡さんや他の人材を引っ張ってきました。信念に基づいて、それだけアクションを起こせた裏には予算化があると思います。トップの揺るがない考えを実現するための予算化はどう図られたのでしょうか。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

予算は様々なものから取ってきていました。例えば、総務省のまちづくりの文脈で引っ張ってくるようなこともあります。スタッフは地域おこし協力隊を活用するケースも多いです。他にも、スマートアイランドという観点で国交省の予算にも関わります。教育×まちづくりの考え方は現在広がってきているので、財源は企画の仕方次第で色々と活用できると思います。

また、これからは、国の予算だけに頼るのではなく、民間予算をどう引っ張ってくるかもポイントになると考えています。投資資金の運用によって回っている神山まるごと高専は有名ですが、教育において、民間資金をどう獲得するかという議論も今後深くされるべきだと考えています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

■子どもの成長にはソーシャルキャピタルが重要

ロバート・パットナムという政治学者が、子どもの成績に影響を与えるものとして、地域のソーシャルキャピタル(社会的資本)が重要であると示しています。つまり、子どもの教育には地域のつながりや互助関係が大きく影響していると指摘しているんです。これまで、「教育は学校でのみすること」のように思われがちでしたが、そうではないんですよね。

地域の人たちが自分ごととして対話を通じて関わっていくことが大切だと思っています。対話を通じてということは、 つまり、自分たちの成功体験や自分の経験に依存しすぎず、新しさを受け入れて、イノベーションを生んでいくことです。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

「人生100年時代」といわれていて、学校は最短で9年、頑張っても20年ちょっとの期間にすぎません。それ以外の家庭教育と社会教育がやはり非常に重要になっていく。「教育=学校教育」というボタンの掛け違いをひとつひとつ丁寧に取りほぐしていかないといけないと感じました。(副議長 森万喜子)

■地域の自立がすべての起点

「自分たちの地域は自分たちで運営して守る」という気概が重要だと思っています。アメリカのボストンの近くにあるパレットタウンは中央政府の力が届かない、支援がなされない地域でした。そのため、当時は教育も政治も経済も福祉も医療も地域の人たちが自分たちで行っていたんです。

このパレットタウンの政治手法や経済手法が世界に飛び火して、一時期はアメリカがリーダー的な存在になっていきました。つまり、地域の自立が起点となって世界につながっていると思うのです。そして、自立した個人とは、自立したコミュニティでしか育まれません地方創生・地域活性化とは、「自分たちのことを自分たちで考えていくこと」ではないでしょうか。そういった気概を持って取り組んでいくことが、結果的に、今後同じ状況を迎える他国の参考になっていくのだと思うのです。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

おわりに(大谷真樹議長)

教育というテーマにとどまらず、青森県の総合政策の議論につながるような講演をありがとうございました。教育を青森県全体の課題として考えるべきだという示唆を改めていただきました。青森県立高等学校魅力づくり検討会議の皆様にも是非ご視聴いただき、連携をしながら、中長期的なテーマの検討を進めていけるとよいのではないかと思いました。


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