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【大谷真樹議長インタビュー】公教育は”オワコン”ではない。こどもを中心とした教育実現に向けて

2023年7月からスタートした青森県教育改革有識者会議。そこで議長を務める大谷真樹知事参与が、青森県教育改革有識者会議がスタートした背景と「爆速」で駆け抜けた約半年間を振り返りました。さらに、2024年度に向けたアクションと意気込み、展望とは。お話を聞きました。


青森県教育改革有識者会議スタートの経緯

ーー青森県教育改革有識者会議はどのような経緯でスタートしたのですか。

2023年6月、ある晴れた朝の日、宮下(宗一郎)知事から電話があったんです。「単刀直入に言いますが、青森県の教育を変えてもらえませんか」と言われました。それで速攻で、「単刀直入に言いますが、無理です」とお返事しました。

ーー「無理です」のままですと、改革がスタートしないですよね(笑)。その後、どう展開したんですか。

お話を聞いていくと、宮下知事は青森県のために本気で教育を変えるのだと決意していることが伝わりました。そして、これまでのカタチばかりの改革とは違うのかもしれないと僕自身も心が動いたのです。

しかし、僕は2019年に学院長を務めるインフィニティ国際学院を作ったばかり。そこがまだまだヨチヨチ歩きの状態なんです。学院を放っておくわけにはいかないので、僕は「直接的な改革はできないけれど、最大限お手伝いします」と伝えました。

ーー有識者会議のメンバーの皆様は、全国的に知られている実践者の方々ばかりで他県の教育関係者にも驚かれます。

知事が本気ならば、僕も本気のメンバーを集めようと思い、知事と相談しながら委員候補の人選を進めました。最初に現在、副議長の森万喜子先生にお声をかけました。森先生に対しては、「こういう方とペアだったら変革をやり切れる」と直感的に思ったんです。

実は有識者の委員の方には、半分程は断られるのではないかと思っていたんです。しかし、蓋を開けてみると、誰1人断ってきた方がいなかった。「青森県が本気を出して変わっていこうとしているらしい」「新しく就任した宮下知事は、どうやら教育改革に本気らしい」ということが伝わったのだと思います。

さらに、それまでの僕は「公教育はオワコンです。もう降りましょう」とよく言っていたんです。「あんなことを言っていた大谷が、真反対の『公教育を変える』と言い出したぞ」とおもしろがって、可能性を見出し、賛同してくださったのだと思います。

こどもを中心とした教育への転換

ーーなぜ、公教育はオワコンだと思っていたのですか?

6年間、八戸学院大学の学長として、文科省や教育委員会、学校に接していく中で、何度も何度も何度も「変わっていきましょう」と言い続けました。しかし、何も変わらなかった。一番衝撃的だったのは、文科省の官僚に「あなたたちの仕事はなんですか?」と聞いたら、「国会対策です」と返されたこと。「こどもたちではなくて、国会議員を向いて仕事をしている。これはもうダメだ……」と思い、公教育から降りようと思ったのです。

2018年に大学を退官しましたが、何かをやり残した感覚がどうしても拭えませんでした。「このままでは日本はまずい」という焦燥感はどんどん大きくなりました。そして、「公教育を変えようとするよりも自分で新しい学校を作った方が早い。その学校で教育界へ風穴を開けることができれば、やがて影響は広がっていくだろう」と思い立ち、戦略の転換を図ったのです。そして、インフィニティ国際学院を立ち上げました。

ーーインフィニティ国際学院を立ち上げ、そちらに注力しようと考えた大谷さんが、なぜ再び公教育の可能性に賭けたいと思ったのですか。

財政支援がなされている公教育で、きちんと新しい学びが展開されることがベストです。インフィニティ国際学院は、「そうか、そういう学び方もあっていいんだ」「こういうケースもあり得るんだ」という最初の布石として問題提起をした学校です。現在は少しずつ、広島県が変わった、加賀市が変わった……と公教育が動き始めているタイミング。そして、青森県も変わるのです。最後にはオセロゲームのように、日本の公教育全てがひっくり返るというのが僕の理想です。

ーー実際に変わっていった自治体を挙げてくださいましたが、それらに通底する理念や上位概念とはなんでしょう。

「こどもを中心とした学び」を実現しようとしているということでしょう。これまでの教育は、「国家のため」あるいは「産業界のため」に、効率のよい教え方をし、偏差値という一律の軸で評価をしてきました。これは主語がこどもたちになっていない状態です。はっきり言ってしまえば、今は「こどもの幸せ」よりも「国家や産業界のために」ということが優先される制度になってしまっているんです。それどころか、むしろ可能性を奪ってきた側面すらあります。今後、青森県は、「こどもまんなか青森」と宣言しているとおり、こどもを主語にした教育に向けて変わっていこうとしているのです。

「学校現場の最大の応援団になる」

ーー青森県教育改革有識者会議にはどのような狙いや思いが込められているのでしょう。

僕が意図していたことは、「改革議論の県民へのリアルタイム共有」です。これまでの会議は会議室に閉じていて、議事録がどこかに格納されて、いつの間にか終わることの連続でした。そうではなくて、本気の議論を全公開して、県民と先生方に伝えていく。なぜならば、9割方の先生は「どうせまた変わらない」と思っているだろうから。僕も同じ思いでしたから、その気持ちはよくわかります。情報発信を続けていくにつれて、少しずつ「もしかしたら変わるかも」という期待を持てるようになった先生方も増えたのではないかと思うんです。情報発信によって我々の考えや動きをオープンにし、そして自分事として感じてもらえるよう意識をしました。

ーー有識者会議の委員の方も全公開の場で、忖度なくお話しくださいましたね。

むちゃくちゃな「爆速」スケジュールと、むちゃくちゃな突然の依頼と、シナリオなしの状態で、有識者会議の委員の皆様はよく耐えてくださいました。シナリオがないからこそ、おもしろがって忌憚のない意見を言ってくださったんでしょう。それを森先生が絶妙なファシリテーションでまとめてくださいました。会議内では議論は発散しますが、そこから我々が事務局と一緒にキーワードを拾って報告書に反映させていく。このプロセスも素晴らしかったと思います。

一般的な役所の会議は、シナリオがあって、発言順番も決まっていて、落としどころすら定まっていることが多いんです。しかし、有識者会議は全然違う。最初は事務局も戸惑っていたと思うんですよね。

ーー学校現場の反響も少しずつ届いていますか。

情報公開を急ぐことで、おもしろがってくださる方も増えていきました。先生方から、「楽しみにしています」「共感します」「職員と一緒に観ました」といった連絡が来るようになりました。中には、「爆速公開ありがとうございます!」と、公開の翌朝にすぐメールが来ることもありました。現在、変革への熱量の高い先生方の「点」が健在化してきたように思います。いっぺんに染まることはないでしょうから、共感する「点」(人)が増えていき、周囲へと広がっていくのだろうと思っています。

先生方も教育委員会の方も、志を高く持って教育業界に入った方々です。だからこそ、「こどもたちのために」と思って実行しようとしたけれどできなかった挫折体験を抱えている。それがトラウマになっている方が非常に多いのが現在の教育界の現状だと思います。

だからこそ、最初は「有識者会議という黒船が来た」と思って警戒していたと思うんです。しかし、何度も繰り返しお伝えをしていますが、僕らは学校現場の最大の応援団です。このことを伝え続けてきた結果、信じてくださる方が徐々に増えてきたと実感しています。教育に関わる方々が、前向きなパワーを取り戻していくきっかけになれたら嬉しいです。

ーー保護者や地域の方の中にも、改革に目を向けている方がいらっしゃると思います。

「地域でどう支え変えていくか」ということを保護者とともに考えていきたいです。「青森だから何もできない」「変わらない」という諦めの感覚を持っている方がいらっしゃることも承知しています。あるいは、「学校がダメだ」と他責にしている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、教育は全県民に何らかの形で関わるものです。自分のこどもや孫、地域のこども、将来自分をケアしてくれる人材かもしれません。他人事のはずがないのです。もっと自分事化できる機会を持てるよう、コミュニティを作るなど、教育現場を支える応援団の輪を広げていきたいと考えています。

「実行の年」に向けた課題と展望

ーー今後、どのように青森県の教育改革に関わっていこうと考えていますか。

今、本当の意味でスタートラインに立ったところだと考えています。2023年度はスタートラインに行くまでの準備体操と情報収集の段階でした。こうした会議は「提言を作って終わり」になることがとても多いんです。しかし、有識者会議は継続していきますし、知事にも合意いただいています。ここからは、どう提言に盛り込まれた内容を実現していくか。そこがすごく難しい点ですね。

まずは、総合教育会議の中で実行部隊となる教育委員会と意見や情報を交換し、連携を深めていきたいと考えています。現場には多様な困難な状況が起こります。それを僕らも十分に踏まえながら、課題に対して「こんな方法があるかもしれない」「こんな先進事例がありますよ」と情報を交わしていく。改革を前進させていくには、そういった議論が欠かせません。

ーー今回の教育改革では市町村教育委員会との連携も肝になってくるかと思います。

義務教育から一気通貫して改革をしていかなければ、本当の意味で県の教育が変わったとはいえません。県管轄の高校だけが変わっても、中学校や小学校が変わらなければ、理想の姿に到達しないのは明らかです。

おそらく、教育改革に踏み出したいと考えている市町村はいくつもあります。そのためには自治体にリーダーシップを発揮するリーダーがいなければいけませんが、その方とベクトルと力を合わせながら一緒に変えていきたいと思っています。そして、「変えたい」と思っているリーダーの心にいかに火を灯していくかも重要なポイントでしょう。例えば、有識者会議で全市町村教育長にお声をかけ、意見交換をできないかといったことも考えています。これが実現できれば画期的なことです。

ーー2024年度、教育委員会との連携強化のほかに、どのようなアクションをしていきたいと考えていますか。

先生方の中に変化の種となる「点」の存在が現れ始めたと先ほどお伝えしましたが、その先生方をもっとつなげていきたいと考えています。もっとフラットに、もっとオープンに、対話や情報交換ができる場を設けていく。これは、管理職の先生向けにも現場の先生向けにも必要です。ネット上でも、リアルな会議でも、校外の先生とつながる機会を引き続き作っていきます。

また、そのためには、心理的安全性が不可欠です。それがなければ、構えたり思いを伝えきれなかったりしてしまう。そのため、研修の中でも心理的安全性の文化の醸成は重要な項目としたいです。

ーー有識者会議も継続が決まりましたが、2024年度はどのような議論を深めていきたいと考えていますか。

今年度議論が足りなかった点は、中期課題として取り上げた高校入試制度の検討や学校再編です。これはこどもたちの学びの質そのものに関わる、非常にセンシティブな議論です。教育委員会はもちろん、市町村の首長や教育長など様々な関係者と対話を重ねる必要があります。人口が減少していくのは明らかで、急に増えることはありません。先延ばしにしていても、近い未来、必ず議論の俎上に上げなければならなくなります。検討の際に重要なポイントは、大人の理屈ではなく、こどもが主語の議論にしていくということです。学びの質を担保できるか。あるいは、学びの質を上げられるかという目線が不可欠です。そして、そのヒントはオンラインやICTの活用にあると考えています。

教育改革で見すえる青森県の未来

ーー教育を変革し続けた先にある、長期的な展望を教えてください。

青森県は放っておくと自然減と社会減のダブルパンチです。そして、社会減の中には、「青森県は教育が心配だから首都圏に出ていこう」あるいは「こどもを出そう」という方々も含まれています。それを減速できるのが教育改革の力だと考えています。

また、教育は移住のキーワードになります。長野県軽井沢市や北海道上川町は移住増に転じています。長野県には風越学園や大日向小学校があることで、親子で移住するケースが出てきているのです。僕の長期的な目標は、「青森県は教育がいいらしい。こどもを真ん中にした新しい公立学校ができて、最先端の教育がなされているよ」といった口コミがなされ、青森が選ばれる土地になっていくことです。

そのためには、青森県に多様な仕事も必要です。僕はこれまでもアントレプレナーシップ教育への注力もしてきました。現在はオンラインで多くのことができる時代。仕事は作れるものですし、どこかに就職するよりもそちらの方がリスクが少なくさえある。そうした社会の変化をこどもたちにきちんと示していきたいです。この長期目標を、僕が生きている間に実現していきたいと思っています。青森県からの逆転ホームランを先生方と一緒に打ちたいのです。


【これまでの青森県教育改革有識者会議の議論はこちらからご覧ください】