見出し画像

令和6年度 【第5回】青森県教育改革有識者会議レポート

2024年7月2日に、第5回青森県教育改革有識者会議が開催されました。本会議では、「青森県としてのあるべき姿」について検討した上で、本年度取り扱う「①小・中・高・特別支援における授業の在り方」「②県立高校における入試制度の在り方」「③人口減少下における学校統廃合を含めた県立学校の在り方」について、委員による提言に向けた議論が行われました。

はじめに(議長 大谷真樹)

第5回青森県教育改革有識者会議の前に実施した常任委員による打合せでは、提言の方向性について議論を行いました。

打合せでは、「学校教育については、今後の青森県の社会・産業構造をどうしていくのかを見据えた上で議論をしていかなければいけません。その上で、青森県を支える人材像を明確化して、そこに合った教育改革を行っていく必要があります。県として『20年後をどうしていくのか』を見据えてデザインできるのが、知事の立場です」
という高い視座からの投げかけをいただきました。社会の変化に合わせた青森県の学力観の定義が必要ではないかと考えています。

それに紐づいて、「①小・中・高・特別支援における授業の在り方」については、都会では体験できない青森県ならではの学びの機会を提供していくことが重要ではないでしょうか。昔ながらの、学力をつけて都会へ出ていくという「村を捨てる学力」ではなく、「村を育む教育」を意識してデザインしていく必要があると考えています。

青森県では、単位制を導入している高校が4校で、他の学校は学年制となっています。しかし、単位制の方がカリキュラムに柔軟性を持たせることができ、生徒のニーズに合うのではないかという意見も出ています。

また、学力観が変わり、総合型選抜の拡大など大学入試が変化する中で、高校入試制度を見直していく必要があるのではないかという議論が「②県立高校における入試制度の在り方」にあたります。これは来年度からすぐに変えられるものではありませんが、時間がかかることだからこそ、今から遠くへ石を投げて早急に考え始める必要があるのではないかと思っています。

加えて、受験が学力観を規定していることは間違いないので、高校入試だけを視野に入れるのではなく、小中高から接続させて県内の大学へのリクワイメント(要望)も必要ではないかという意見が出されました。

「③人口減少下における学校統廃合を含めた県立学校の在り方」については、知事からも「統廃合を前提として議論するのではなく、残すためにどのような道があるのか」の議論を有識者会議に期待したいという意見をいただいています。一案として、地理的に厳しい立地の高校においては、オンラインを用いた学習センター化を図っていく方法もあるのではないかという議論もなされました。さらに、そこに夜間中学校などの複合的な役割を持たせられないかという意見も出ています。

委員による意見交換(敬称略)

■青森県においてどんな人材を育てていくか

目指す理想的な姿を長いスパンできちんと考えつつ、時間を置かずに具体的に学校がどう変わっていくのかということを同時に検討・実行していくことが求められると考えています。(副議長 森万喜子)

現状から考えて改善や改良をしていくと、どうしても変えきれない部分が出てきます。対症療法ではなく、20年後の社会はどうなっているのかというところから考えていく必要があるでしょう。提言なので、中途半端ではいけないと思っています。(議長 大谷真樹)

なぜ高校入試を変えなければいけないかというと、高校入試が変わらないと中学での学びを転換できないからなんですよね。大学入試は総合型選抜がスタートし、小中に関しては全国学力学習状況調査で思考力を問う問題になってきている。その中で、中高の接続の段階だけが抜けてしまっているのではないかという目線が必要です。入試の方法と問題の質の部分をあわせて考えていくことが必要なのではないかと思っています。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)

現在、アカデミックな人材を育てる学びと、職業人を育てる学びとが、高等教育機関でごちゃごちゃになってしまっています。大学が生き残る道を見つけて活路を見出していくことで精査が進む側面もありますが、高校生も自らどんな道を進みたいか選択できるような力をつけていけるといいのではないでしょうか。そして、一度選んだらそれが固定するのではなく、スイッチできる仕組みも同時に必要だと思っています。単位制の導入により、それが実現しやすくなると考えており、「自分は違う道にいきたい」と思ったら単位を持ってスムーズに移れるようになっていきます。学びの基礎インフラとして単位制にすることで、運用面の複雑さはあれど、通信制を活用できたり全日制普通科に行ったりと、行ったり来たりできる仕組みを作っていけるとよいのではないかと思っています。(議長 大谷真樹)

■学びの選択肢を増やしていく

青森県では学校外での学びの場が少ないです。その一方で通信制高校が頑張っていて、高校中退を防いでいるという状況があります。この通信制高校に中学生と小学生の不登校の子どもたちを接続させるのも一案ではないかと思っています。また、公立の通信制高校は私立の通信制高校と比較すると進級するフォローが弱いという弱点もあります。青森型のモデルを作成し、それらをサポートするような居場所・仕組みを、通信制高校に併設させてもよいのではないかと考えています。さらに、その居場所がサポートする範囲を中学生にまで広げて公設民営型のフリースクールにしてもいいのではないでしょうか。(フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥)

江川さんの発想は子どもを対象にしていたけれど、学びの機能を重ねることで、大人に対してもリカレント教育の場にすることができるのではないかと思っているところです。管轄の違いなどもあり、議論を重ねる必要はありますが、理想を掲げて動き出すことが重要です。(議長 大谷真樹)

合田さんからは、「これからの時代はアートとサイエンスだ」という発言もありました。いわゆる従来通りの部活動だけでなく、プログラミングやゲーム制作など子どもたちが興味がある領域についての部活動や学びの場を考えていけるといいですよね。ネット部活にもしやすいでしょうし。勝負とか競争で鼓舞するアプローチではなく、「楽しい」という思いで部活動に没頭できるようにしてもいいのではないでしょうか。(副議長 森万喜子)

現状、青森県においてスポーツ科などでは部活動の成果で進路を左右することもありうる仕組みになっています。そうした学校の状況を鑑みると、少しずつ地域移行は進みつつ、一足飛びにはいけない現状もある。今、従来通りの部活動を頑張っている子どもたちを応援していくことも大切にしたいですよね。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)

だからこそ、選択肢が大事なんですよね。放課後の時間を何に使うのかを子どもたち自身に委ねていく。その中で、スポーツを極めたい子がいたら、それは応援する。日本の学校は子どもたちに自己決定をさせない方向できてしまいました。それなのに、探究学習で「自分で問いを立てなさい」といわれたり、社会に出て自ら自分の道を選んでくださいといわれたりする。どうすればいいの?と困ってしまうのも当然ですよね。(副議長 森万喜子)

いかに自己決定できる機会を設けられるかは重要ですよね。フィンランドでは、お昼寝のときにマットレスがあったりヨギボーがあったりハンモックがあったりし、どこで眠るか選ぶんです。そうした小さな自己選択ができるようになっている。日本では基本的に一律にふとんをならべて雑魚寝ですよね。ヨギボーは2つしか用意されていないので、もし希望が重なったら、子どもたちで話し合って折り合いをつけるんです。自己決定し、他者と折り合いをつけていく機会があるかどうかは、決定的に違うなと感じました。みんな同じ環境を与えられているのか、自分で考えて判断して行動する機会が用意されているのか。子どもたちをどう育てていくのかを考えていく必要があると思いました。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)

ビュッフェ型か定食型か、ということも気になっています。「好きなものを自由に選びなさい」というとビュッフェのように好きなものしか選ばなくなっていくと思うんです。大学の授業選択の際には、ビュッフェ型にすると学びの意欲が高い子は自分の関心に合わせて単位を取りますが、意欲が上がっていない子はラクな授業ばかりを狙うようになります。学生に任せ切っていいのか、ある程度の型があってもいいのか、という議論は必要かもしれません。型と選択肢を往還しながら、自分の学びを作っていくことができるとよいのではないでしょうか。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

その型になるものがルーブリックだと考えています。いまのルーブリックはそれに沿って教員が評価するものとなっているけれど、本来は子どもが「3ヶ月後にはこうなっていたい」といったマイルストーンを検討して、自分自身で立てていくものです。また、そのルーブリックに対して、「それでゴールに辿り着けそう?」「このステップで効果が出そう?」といったことを投げかけていく伴走者も必要です。(副議長 森万喜子)

■青森県の最上位目標は?

「協働」や「対話」や「イエナプラン」などのキーワードは手段なんですよね。イエナプランであれば「共同体感覚を持った市民を育てる」ということが目標です。だから、「なんのために」ということが見つけられるはずだと思うんです。それが「産業構造に対応できる人材」「社会の変化などに対応できる人材」といったことも出てきているので、おそらくそういうことだとは思うんです。ただ、バランスがどうなのかなと思っていて。

学校の先生が子どもに辛くあたってしまっているのは、昔の教育を再生産しているというだけではなくて、プレッシャーを強く感じているという側面もあると思うんです。それはなんのプレッシャーかというと「子どもにここまでさせねばならない」というものです。それは先生が個人的に背負ってしまっていることもあれば、校長先生や教育委員会からそうした力が働いていることもあります。子どもが心に麻酔をかけなければ、学校に通えなくなっていることが多く起こっていて、青森県でもそうなっていないかということを心配しています。「何かをできるようになる」ということと、それだけではなくて頑張れない自分も許すといったバランスもあるといいのではないかと思っているんです。

学校の先生に話を聞いていると、「政治や経済界から『学校はこれが足りないから、これを足せ』という意見が出てくる。たしかにそれは正論だけれども、『ほんとうにこれでいいのかな?』とも思っている」という声も聞きます。この有識者会議がそれと同じように見えていたらもったいないと思うんです。

例えば、ヨーロッパを視察したときに、先生方は「セルフエスティーム」と常に言っていました。つまり、自分が自分らしくいることのほうがよっぽど大事だということを伝えているんですよね。デンマークであれば「信頼」や「民主主義」などがキーワードとなっています。そこさえ大事にできれば、他のものができなくても大きな問題でなないとさえ捉えているんです。「あれも、これも」ではなく、キャッチフレーズとなるような軸が見えてくると「これだけは大事にしよう」ということが見えて、先生方もゆとりが出てくるのではないかと思うんです。((株)先生の幸せ研究所代表取締役 澤田真由美)

■「新たに始める」ではなく「やめる」ことが必要

学校現場のゆとりの話でいえば、「新たに何かをやる」ことではなく、「何をやめるのか」を聞いていきたいですね。(議長 大谷真樹)

人事制度やマネジメントで、変革しやすい仕組みを作っていく必要があるのではないでしょうか。スムーズに再任用に入るために、校長職の方がチャレンジしにくい心理的な状態があるのだとしたら、理想を掲げていても絵に描いた餅になってしまいます。僕は日本の先生方の力を信じているので、先生たちの力を最大限に発揮できるような仕組みにしていくことが重要だと思っています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

コロナ禍でコミュニティスクールの熟議が行われ、先生方が捨てきれないところを「先生、そこは私たちがやりますよ」と地域の方がバトンタッチしていけるような話し合いが行われたんです。そうした、地域の方々との協働を視野にいれながら、先生方の本来の仕事に集中できる環境を作っていけるといいですよね。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

学校はこれまでやってきたことが染み付いているんですよね。「業務効率化」ではもう立ち行かないんです。「なにをやめるのか」を明示しないといけない。そこで地域の協力をもらわないと、批判がきてしまうんですよね。それを学校も恐れている。部活動も同様で、「これまでは先生たちが無料で教えてくれていたのに」となってしまうんです。しかし、その部活動は多くの先生方の犠牲の上に成り立っていたんだということをまずは理解してもらえると、批判ではなく、違ったアプローチになっていくのではないかと思います。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)

福井県は学校と地域との関係性が上手で、例えば運動会の時などに地域の人たちが「先生、そんなことしなくていいから。私たちがやりますよ。先生たちは先生たちの仕事をしてください」と伝えているんです。先生たちの余裕を生み出す仕組みが地域の中に埋め込まれているわけです。学校と地域の相互承認がなされているので、それゆえに学校が自分たちの仕事をできています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

県外に出ることで、青森県のことを学ぶこともたくさんあると思うんです。青森県の場合は昭和30・40年頃は冬場は出稼ぎで外に出ざるを得ませんでした。今は、そういう時代ではないですよね。1回外に出て、戻ってきて雇用を生むような事業をするようなことも考えられます。情報や交通の面でも圧倒的にスピーディになってきているのでかつてとは違うわけです。一番大事なのはその人の能力が一番引き出され、どこでも活躍できる力を育んでいくことです。その結果、定着してくれる人も、青森県への思いを持って外で活躍している人も、応援していきたいという思いがあります。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)

おわりに

青森県の人がどう思っているのか、何に困っているのかを直接聞く機会もほしいです。教職員向けアンケートこども向けアンケートをもちろんじっくり読みますが、保護者の方の不登校に絡んでの困りごとや、学校への思いなども伺えるといいですよね。(副議長 森万喜子)

これまでの会議の中で、全国の最新の情報はたくさんいただいたので、その上で青森県はどうするのかということを深める段階に入っていると考えています。また、青森県内の方々の声を聞く対話の場についても設けられるようにしていきたいと思っています。「未来を諦めない、がまんしない、青森」といったコンセプトでいけるとよいのではないでしょうか。(議長 大谷真樹)

【青森県教育改革有識者会議「こどもたちの幸せを考えるラウンドテーブル」のnoteのフォローをよろしくお願いします!】