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【第8回】青森県教育改革有識者会議実施内容まとめ〜地域の大人と学校が一緒に子育てする方法とは〜

2023年11月22日に第8回青森県教育改革有識者会議が開催されました。本会議では、特別委員の生重幸恵氏(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長)にご講演をいただき、その後、委員による議論がなされました。

▼第8回会議はこちらの動画でご覧いただけます▼
本記事では内容を一部抜粋して掲載しておりますので、ノーカットでご覧いただける動画も併せてご活用ください。

パッとわかってグッとくる講義内容グラレコ(森副議長作)

生重幸恵特別委員(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長)講演

【プロフィール】
生重幸恵(いくしげ ゆきえ)
特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長
一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会 代表理事
内閣府地域活性化伝導師、第8期東京都生涯学習審議会委員、東京都社会教育委員、港区社会教育委員、杉並区立天沼中学校・天沼小学校運営協議会委員。PTA会長時代から、学校を支援する活動を積極的に行い、その経験により区内他校PTA会長経験者とともに、2002年に法人を設立し代表に就任。全国の教育委員会・PTA等主催研修会で講師を務める。

はじめに

これまで登壇された委員の方々からも、社会が変わり、だからこそ教育のあり方は変わっていかなければいけないというお話をいただいてきました。私自身も義務教育にはまだまだできることがたくさんあると思っています。

現在、日本中の問題として少子高齢化が進んでいます。社会的な格差も拡大し、全国的に子ども食堂の必要性なども叫ばれています。地域社会の中で家族の在り方が変わりつつあり、ネグレクトなどの虐待も大きな問題になっています。産業構造や雇用構造の変化が何十年も続き、安定した生活を送ることが当たり前ではなくなってきているのです。コロナ禍というパンデミックが我々の生活を脅かし、現在はそこからの回復傾向にはありますが、ダメージから立ち直れずにいるご家庭はたくさんいます。

また、グローバル化の進展も進み続けています。私が関わっている学校の中でも、海外ルーツの子どもたちが半数程を占めるケースもあります。

「これからの社会」ですべきことは、変化が激しく予測できないこの社会で学び続けられる人材を育成することではないでしょうか。急激に社会が変化する中で生きて、働く子どもたち。従来と同じ教育内容でいいのか、という問いかけは必要でしょう。

キーワードとして、文部科学省は「社会に開かれた教育課程」を掲げています。そして、資質・能力の3本の柱として、「何を知っていて、何ができるか(知識・技能)」「知っていること、できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間性等)」を重視しています。

言うのは簡単ですが、これらを実際に習得することは容易いことではないということは、現場の先生方が一番実感なさっているでしょう。例えば、小学4年生の壁にぶち当たってしまって勉強が嫌いになってしまう子や、中学生になって急に勉強がわからなくなる子などは毎年たくさんいます。そうした子どもたちのほとんどは、学ぶことを諦めてしまいます。現在は、少しでも勉強や学校に対して困難さを感じた子どもたちは居場所を失ってしまうような状態にあります。しかし、本来であれば、いくつからでも学び直しはでき、いつからでも自分たちがやりたいことにチャレンジできるはずです。子どもたちの状況を踏まえた上で、学習意欲を高め、主体的な学びを促すアプローチが必要とされているのです。

大人の役割とは

小学校の算数の授業へボランティアが入ったケースを紹介しましょう。先生が一人で授業をしている場合には、理解できていない子一人一人に対応することはとても難しいでしょう。しかし、座席1列ずつにボランティアが入って、「この問題はこの考え方と一緒だよ」「この部分にヒントがあるよ」といった声かけをすると、子どもは再び手を動かすことができます。

そして、子どもたちは自分の力でわかった瞬間、すごくいい表情をするんですよね。解いた問題をボランティアの方に持っていき、丸をもらうと、さらに目が輝きます。基礎の段階でそれができれば、難度が上がっていっても、自ら取り組んでいく力を発揮していくことができます。

小平市の事例では教育長が自ら音頭を取って、地域のお年寄り向けにボランティア育成講座を開催し、授業の見守りにどんどん入ってもらうよう促しました。授業に入ることが日常化すると、町探検や遠足など子どもたちが校外に出るタイミングでもボランティアが活躍するようになります。先生方は教えることに集中でき、子どもたちの安全はボランティアが守る、という環境が出来上がっていったのです。そうしたことを続けていった結果、先生たちが「この授業でもきてくれませんか?」とボランティアに気軽にサポートをお願いできるような関係性ができていきました。

私が見学に行った時には、一人の年配の男性ボランティアの方に子どもたちがだんご状になって集まっていました。そのボランティアの方に、「大変ですね」と声をかけると、「全然そんなことはないですよ! 僕は退職してから教育長に声をかけられるまで、ずっと病院通いだったんですよ。学校に来るようになって、常連の病院患者に『あの人、体調悪いのかな』と囁かれるようになった。病院の待ち合い室が不在の人の体調の心配をする場になっているっておかしいだろう?」といっていました。しかも、「子どもたちが慕ってくれるし、先生が頼ってくれるから、僕は毎日スクワットを100回して体力維持に務めているんです。今では、すっかり健康になって、病院には全然行っていないですよ」と続けました。私はこれを聞いて、かなり感動したんです。

私の地元でも、土曜日・放課後・朝7時半から、学校を開放し、町内会の方たちに交代で見守りをしてもらいました。そうした交流の中から子どもと地域の方が挨拶し合う関係になり、おじさん・おばさん・おじいちゃん・おばあちゃんではなくて、鈴木さん・小林さん・佐々木さん・井上さんと個人名で呼ばれるような関係になっていきました。これは、現在、失われている地域との関係性を取り戻していった事例ですよね。

私が最初に学校に関わったのは子どものPTAがきっかけでした。 最初は自分から積極的に関わったわけではありません。正直なところ、仕事もしていて忙しいですし、いやいや、やりました。PTAは「大変だ、大変だ」と言われているので、委員決めの時にはみんな下を向いて、やりすごそうとします。役員決めの時もそうです。お通夜のように静まり返った状態が1時間でも2時間でも続くんです。その重苦しい空気にたえかねて、恐る恐る「私、やります」と手を挙げたことがスタートでした。

PTA会長になってからは、怖がらずにどんどん色々なことを変えていきました。変えていくことに学校は反対しませんでしたし、保護者の方はすごく喜んでくれました。必要なことをやる。不要なことは前例踏襲しない。 子どものためになるワクワクするような取り組みを実施していったので、他の保護者も自然と集まってくる状態ができていきました。

保護者の方は「委員や委員長などになりたくないだけなので、 名前は出せないけれど、協力はたっぷりします!」と言います。実際に、やりたいことならスタッフはどんどん応募してきてくれました。大切なことは、既存の活動を見直す勇気。そして、子どものためになることを、大人が楽しみながら行うことです。

PTA会長をしている時に、勉強が嫌いで「何もしたくない」と言っている子どもたちと防災体験をする機会がありました。代替わりしながら取り組みを続けていくと、学びへの意欲が低かった子どもたちの劇的な変化を見ることができるようになりました。自分自身で体験したことは、さらなる学びの意欲につながっていきます。 学習意欲は、自分が主体的に「学びたい」と思わない限り起こりません。現在は、大人が「やれやれ」と与えすぎて、子どもに考える余地がなくなり、主体的になれずにいます。防災体験を続けていく中で、地域の安全や防災を考え、誰かのために何かをするという行動をとった時に、 子どもたちは自分で伸びていくのだということを私は痛感しました。

キャリア教育について

「キャリア教育」では、職業教育といった意味だけではなく、「こんなことを経験してみたい」「こんなことをもっと学びたい」ということの積み重ねが重要だと考えています。リアルな世の中とつながると、おもしろく生きていたり、真剣に生きていたりする大人と出会います。それが子どもの刺激になっていく。一方でそれがなければ、子どもにとって大人はつまらないものだと認識されてしまいかねません。色々な大人と出会い、ときめくような体験の場を、きちんと設けていかなければいけないと考えています。

特に、地域ならではのふるさと教育をしていけるとよいですね。 自分たちが育っている場所はどんなに恵まれているのか、どんな魅力があるのか。歴史が積み重なって、今の町の、市の、村の存在があるのだということを体感できる。そういった学びがなければいけないと思っています。学校は教科書に則って授業を進めていくものですが、その合間にいくらでも体験的な学びは入れていけるものです。さらに、「総合的な学習(探究)の時間」が入り、地元の企業や仕事、伝統文化などと出会う機会も増えています。

何よりも、子どもたち自身が「学びたい」と思うことが大事です。そのためには、他者へ働きかけ、 他者と協働し、外部と相互作用を起こす必要があるのです。

コミュニティスクールの重要性

学校の中に学びを閉じていては、地域での体験的な学びを実現することは難しいです。また、先生方の仕事をこれ以上増やすことも、現実的ではありません。何が必要かといえば、地域と協働・連携するコミュニティスクールの導入です。

コミュニティスクールには大きな可能性があるのですが、私は議論の最初の段階から関わってきた者としてすごく懸念していることがあります。 それは、学校運営協議会を設置するのがコミュニティスクールなのですが、それをすげかえられてコミュニティスクールと名乗っている学校が出てきていることです。学校運営協議会は重要な役割を担う機関。これをなくしてはいけません。

コミュニティスクールの説明だけで膨大な時間がかかるので、今回はさわり部分だけの説明にとどめます。コミュニティスクールは、「地域とともに校長である学校経営者がどんな子どもたちを育てていくのか」というビジョンを描きます。学校長は学校経営方針を地域住民と共有し、それを実現するために地域と協働していきます。これは、地域や保護者に閉じて学校だけで教育活動を行って、結果的にクレームが増えるといった負のスパイラルから脱する発想ともいえます。子どもたちの土台を支え、地域と学校が一緒に育てていくということが、コミュニティスクールの根幹だと思っています。

地域と学校をつなぐコーディネーターである地域学校協働活動推進委員が中心となり、学校がプランして、私たち地域が学校と一緒になって行動を起こしていきます。先生だけがすべての取り組みを行っていたら、転勤とともにそれは消え去ります。しかし、きちんと地域のことをわかっているコーディネーターがいて、一緒に取り組んでいれば核の部分を残していくことができます。

こうした背景から、私はコーディネーターの存在の重要性を感じ、20年前から各地でお呼びがかかったら育成研修に行っています。また、経済産業省の力を借りて、キャリア教育の専門家を育てるキャリア教育コーディネーター育成事業にも着手しました。現在、全国で約400名ぐらいがコーディネーターとして活躍してくれています。学校と地域の協働には、この両コーディネーターの存在が必要だと考え、全国で育成のサポートを実施しています。

改めて、下記の図をまとめて解説していきましょう。学校全体でプランしたことを、運営委員が承認し、実際に取り組む。PDCAサイクルの「C」では学校評価を行います。外部の存在であれば、アンケート結果を見て「これが足りていませんね、学校は頑張ってください」と言って終わりです。しかし、コミュニティスクールの運営委員の場合には、地域の子どもたちに対して学校と同じ立場で責任を持ち、一緒になって解決していきます。次年度の学校経営に向けて、共にPDCAサイクルを回していくことが重要なんです。地域の方は、学校に任せきりにして、文句を言っていればよいという立場ではないんです。自分たちも一緒になってアクションしていかなければいけません。

学校と地域との関係性を、「連携」と「協働」というキーワードでまとめます。「連携」は、お互いに連絡を取り合って協力することです。「協働」は、複数の人が同じ目的のために対等な立場で協力して共に働くこと地域住民は、子どもの成長を支える目的のために、学校のパートナーとして互いに協力して共通の課題に取り組みます。それこそがコミュニティスクールの根幹です。

学校と地域の連携して結びつけていくのは、地域学校共同活動推進委員のコーディネーター。そして、キャリア教育コーディネーターは、企業や美術館、大学などもっと広く様々な関わりをしていきます。これらのコーディネート機能を持って多様な活動を展開し、より多くの地域住民を巻き込んだ継続的な活動につなげていきます。こうした仕組みを作ることで、普通の公立の学校が持続可能に、様々な取り組みができるようになっていくのです。

先日、 青森県で複数の学校に見学に行きました。その中で、社会とつながって、生き生きと活動していた商業高校の生徒が印象的でした。勉強が得意ではなかった子たちも、実にいい表情で議論して、どんどんアイデアを生み出し、様々な活動をしている姿を見ることができました。子どもたちはおもしろいと思えば、こんなに力が身につけていくのだ、ということを改めて感じることができました。

こうしたことを学校だけでなく、地域の私たちが担うんです。地域住民への情報提供、助言、活動促進など、これまで教頭先生が行なってきた仕事が剥がれただけでも、かなり負担感が減ると思います。そして、コミュニティスクールの運営委員の中で、協力をし合いながら準備できればさらにおもしろい取り組みにしていくことができるでしょう。例えば、企業の体験活動の実施前にコーディネーターが行って、先に見てきた状況を先生たちに説明するようなこともできるかもしれません。

こうしたことを続けていくと、現場の先生も管理職もコーディネーターがいて本当に良かったと思うようになっていきます。あらゆる分野の取り組みを緩やかなネットワークでつなげ、できることを、できる時に、できる人が、できるだけ、関わっていく。様々な方たちに活躍していただく地域、これは強いですよ! 顔見知りなので、災害が起こった時には、助け合え合えます。もっといえば、知り合い同士のコミュニティになるので泥棒も少なくなるんです。

「地域住民が学校を支援することにより、教職員が授業や生活指導などに、より力を注ぐことができた」と回答する学校は約7割(「とてもそう思う」27.3%+「ややそう思う」42.8%)にのぼっています。他にも、「地域への理解が深まった」「コミュニケーションするのが怖くなくなり、色々な人とつながることができた」といった声がよく聞かれます。最初の段階では、「学校は自分たちの領域だから入ってきてほしくない」と抵抗感を持つ先生方も意外と多いものです。しかし、一度うまく回り出せば、1番の理解者と賛同者、協力者を得られる。これは、先生方の気持ちのゆとりにつながるのではないでしょうか。例えば、小学校1年生の1学期の給食時に、グループに1人地域のお年寄りに入ってもらい、一緒に給食を食べるだけで、子どもたちの反応が全く変わってきます。小学校、中学校、高校、それぞれに合った方法で地域との関わりをしていくことができれば学校は変わりますし、先生方のお仕事も軽減されていきます。

さらに、学校理解が地域の中で進むといい関係が生まれます。下記の調査では「地域の教育力が向上し、地域の活性化につながった」という回答が約70%(とてもそう思う19.5%+ややそう思う50.2%)にものぼり、「生きがいづくりや自己実現につながった」も約74%(とてもそう思う25.6%+ややそう思う48.5%)となっています。

ひとつ、思い出深いお話をさせてください。中学校の近隣にお住まいで、自宅の前の道が通学路になっており、毎年、「生徒たちが騒々しい!」「ここの中学生はどうしてこんなにうるさいんだ!」と学校に注意にくる方がいました。大切にしている自宅の庭にサッカーや野球のボールが入ることも許せなかったようです。その方に対して、歴代校長先生は毎年、「申し訳ございません」と玄関先で謝罪していました。

私がPTA会長をしていた時、現在のNPOの仕事をしていこうと思ったきっかけになった校長先生が赴任しました。いつものように、その近所の方は中学校に注意をしにきました。校長先生はその方を校長室にお招きになって、「実はお願いがございまして。校外挨拶委員長に就任していただきたいと思っています。 どうか子どもたちに、『おはようございます』『気をつけておかえり』『さようなら』と声をかけてやってくれませんか」と伝えたのです。その近所の方は、「なんで自分がそんなお願いをされなければならないんだ」とややご立腹でお帰りになりました。

しかし、その方は次の日からこれまで無視していた中学生に対して、一人ずつ「おはよう」と声をかけるようになったのです。そして、次第に「おはようございます」と生徒から笑顔が返されるようになりました。ボールが庭に入った際にも「○○さん、すいません! ボールが入ってしまいました。申し訳ありません」と中学生が謝り、「おお、気をつけろよ」という会話が交わされるようになったのです。

卒業式の日、もっとも「うるさい!」と叱られていた男子たちが、その方のお宅に行って、「今日で僕たちは卒業します。今まで散々ご迷惑をおかけしました。 突然挨拶された時にはびっくりしましたが、僕たちは○○さんと色々なお話ができて楽しかったです。挨拶を教えてくれてありがとうございました」と言いに行ったんです。そして、その方も「卒業おめでとう。 君たちがこんなにしっかりした言葉を送ってくれるなんて」とすごく感動なさったんです。

そして、その方は校長室を訪問し、「校長先生、最初、私は本当は腹を立てていたんですよ。しつけのなっていない子どもたちをなんとかしろ、と思っていたんです。でも、しつけをするのは、家庭であり、地域ですよね。校長先生に挨拶委員長に任命された時は戸惑ったけれど、挨拶をしだして、子どもとコミュニケーションを取るようになって、今日はこんな素敵なことまでありました。本当にありがとう」と言って、校長先生と握手してお帰りになりました。学校が頼ることで、地域の視線は変わっていくのです。

これからのPTA

私は10年以上、杉並区の委託を受けて、 全てのPTA役員向けに、「どうやったらあなたが楽になって、あなたの”困った”を解決できるか」を伝える「PTA活動セミナー」を開催しています。杉並区全体で1000人近い方たちが受講してくれています。また、セミナーだけでなく、例えば「このお金の使い方はどこで処理をしたらいいのか」「こんなことをしたいのだが、これはPTAの範疇なのか」といった相談も受けといます。

保護者の方は学校に関わりたくないわけではなくて、ただただ不安なんです。「委員や役員として責任ある立場になってしまったらどうしよう」と思っています。だから、私たちは保護者の心の負担を軽くするために相談に乗るということが重要だと考えて、携わっています。そうしたスタンスでいた結果、現在では委託を受けている杉並区以外からも、多くの相談が寄せられるようになっています。

事例紹介

これまで、私が携わってきた取り組みの一部をご紹介します。例えば、地域の方や企業の方とユニバーサルデザインを考えたり、老舗店の後継者に自分たちが大事にしている仕事について語ってもらったり、大手のメーカーと協働して目の不自由な方向けにリモコン開発をしたりしています。

また、簡易タンカの作り方などを学ぶ防災活動を年間通じて行っています。町を挙げた防災訓練の時には、中学生が主体となります。高校や大学、大人になってどこに住んだとしても、防災の知識と経験があれば、いざという時に役立ちます。また、訓練の中で地域がつながって、顔見知りになっていく効果もあるんです。こうしたことは、日本中の子どもたちに体験してほしいですね。

また、2年間、釧路の小学生と湿原を学ぶ取り組みをしています。せっかくの地域の豊かな資源である湿原の魅力に気づけないまま大人になってしまうのはもったいないですよね。そうした思いから、予算をとって、湿原体験ツアーを行うようになりました。このツアーでは、無料で食事を食べられて、たくさんの大人が声をかけて構ってくれます。そこに6回続けてきてくれた子がいました。実は、最初に会ったその子はすごく派手なメイクをしていて、私はびっくりしたんです。

ツアー最後のワークショップは必ず私が担当しています。子どもは「楽しかったです」や「おもしろかったです」という感想で終わってしまいがちなので、何が楽しかったかを3つ以上自分の言葉で表現してみようと促しました。すると、みんなが3つずつ発表する中で、その6回連続できてくれた子は、17個も自分の感想が書くことができたんです。ちなみに、派手な化粧もやめ、見た目も大きく変化していました。

子どもたちが体験して思考できる場を、大人たちが協力して作っていく。学校教育だけに全てを求めるのではなく、まちぐるみ、県ぐるみ、地域ぐるみでこうしたことを提供していくのです。このように、子たちが色々なことを経験しながら大人になっていくことで、釧路はもっともっと素敵な街になっていくのではないかと思っています。

私は、多くの子どもが学ぶ公立学校の中で、「自分たちは必要とされている」という実感を持って成長していくにはどうしたらよいかを考え続けています。そのためには、「体験・体感・実感を軸に、子どもは社会で育てること」が必要ですし、実現するには学校だけでなく地域の大人が参画していくことが欠かせません。そして、多くの人の参画を望むならば、できることを、できる人が、できる時に、できるだけ関わるという体制づくりが大事だと思っています。

委員による意見交換(敬称略)

■青森県の伸び代

全国を見ている生重さんからご覧になって、青森県のコミュニティスクールや地域連携の取り組みはどのような段階だと感じますか。(副議長 森万喜子)

すべてを知っているわけではありませんが、あまり青森県でコミュニティスクールの話題や学校教育と社会教育の連携については耳にしないですよね。ただ、私が10年前に関わった金木町では、NPOが中心になって、小学校・中学校と地域をつないだ体験の場作りをしていました。そうした事例が県内にあることは嬉しいことですよね。
また、先日伺った青森商業高校で取り組んでいることを聞いて、すごく可能性を感じました。現段階では、先生たちが頑張って取り組みを作っているんですよね。それでは、先生が異動してしまったらなくなってしまうしれないです。私はお節介なので、あのエリアに住んで、代わりに地域から関わりたいとすら思いました。しかし、青森県内にも絶対にそういった人材はいるはずなんです。だから、大切なことは人材の育成です。その育成も1回行えばいいというわけではなく、繰り返し繰り返し実施するんです。例えば、杉並区の地域のコーディネーターは4回の講座を受けてもらっています。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

■PTAのあり方とは

世の中では、PTA不要論などが取り沙汰されていますが、今後、PTAはどういった存在になっていくべきだと思いますか。(議長 大谷真樹)

PTAは自分の学校に合ったスタイルを取っていく時代に入っていると思います。あくまで私の考えですが、何かあった時に物申せる防波堤になるとも思っているので、必要最低限の保護者が集える組織はあった方がいいのではないでしょうか。県や文科省と話をする窓口になりますからね。様々な地域の活動を聞いていると、保護者だけではなく、地域のコミュニティの方たちにも役割を担ってもらうようなおもしろい組織になっているケースもあります。大阪府の大空小学校では、PTAではなく、それに代わる組織として、SEA(Supporter=支える人、Educator=教える人、Association=組織)があります。大学生や若い保護者が子どもの学習をサポーターになり、読み聞かせのグループにはお年寄りが入り、スポーツクラブの指導者にはその種目が得意な方が関わっています。SEAは大空小学校の校長・木村泰子先生が以前赴任していた学校の元PTA会長を呼んで、ゼロから作っていったそうです。
他にも、藤沢市に10年通って、私からPTAの方に「自由にしていいんだよ」「自分たちで変えていいんだよ」と言い続けていたら、「うちの学校はPTAという名称をかえて、会費もやめました」と言ってきてくださる方があらわれました。学校の校長と話して、絶対に必要な5つの取り組みだけを残して、あとは活動ごとにボランティアを募集するようにしたら、みんなすごく積極的に関わってくれるようになり、人手に困ったことはないのだそうです。お金が必要ならばその場で集めて、会計もその場で終わらせるといいます。小学校も中学校も高校でも、こうしたことはできるはずです。リーダーシップをとる会長が、他の保護者や校長と対話をして、変えようとアクションしていけば、みんなに変えるチャンスがあるのです。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

先日、「明日からはじめる学校業務改善について考えるヒント集」を作成しましたら、同様に、「明日からはじめるPTA改革や地域との協働」といったヒント集も作成できるかもしれませんね。(議長 大谷真樹)

■地域と協働するための予算

地域と一緒に子どもたちのためになる企画を作ったり参加してもらったりする時には、予算は必ずかかるものです。文部科学省はわずかですが予算をつけているはずなのですが、なかなかそれだけでは足りないので、少なくとも交通費や地方においてはガソリン代などは出せるといいですよね。また、地域の活動として産業振興課など教育とは異なるところから予算を確保する方法もあるでしょう。私が関わっているキャリア教育コーディネーターは、きちんと仕事として携われるプロとして自立できる人材育成を目指し、経産省に企画を通して予算を確保しました。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

学校も含めてこうした自治体の仕事は、ただ働きになることが少なくありません。地域のスペシャリストの時間を使っているのに、それはないよな、と思うんです。こうしたモヤモヤをクリアするのが、持続可能な取り組みにつなげるための一歩ではないかとも思います。(副議長 森万喜子)

どういう対価だったら気持ちよく取り組めるか、色々な方の意見を聞きながら決定していかなければならないでしょう。現在、私たちのNPOは「こういった企画をさせてほしいのでいくらください」と交渉しています。その中に、「謝金と運営費をこれくらい含めてください」と伝えています。しかし、一般的な学校付きのコーディネーターたちはそういった状況にはないと思います。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

私はフリースクールをしているのと同時に、地域の子ども食堂のネットワークも作っています。子ども食堂の側からよく出てくるのは、「学校の中で食堂ができたらいいよね」というお話なんです。しかし、いつも校長先生が管理についてどう考えるか、外部の者を入れていいのか、という議論が出てくる。外部の人を入れることについて、管理職にどれくらいの権限があるものなんでしょうか。(フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥)

地域の人をどんどん受け入れてくれる校長先生は、肌感覚で20人に1人くらいです。 面倒くさいけれど仕方ないかという姿勢の中間層は大多数で、「絶対に地域の人を入れたくない」という強固な校長もいます。しかし、そんな校長先生に伝えたいのは「学校はあなたのものじゃない」ということなんです。 学校は、住民の税金で、国の予算も入って建てられています。どうして使いたいという地域の人が使えないんだ、と思うんです。もちろん、触ってはいけない備品や貴重品があるならば、鍵をかけた倉庫に入れるなどの対処は必要です。そうした配慮をした上で、学校はもっと自由に使っていいんじゃないかなと思います。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

「少子高齢化で人がいなくなる」「若者はこの街を出ていったら帰ってこない」と言うけれど、人は冷たくされた場所には戻ってきません。 いじめられた土地には絶対に戻りません。戻りたいと思う場所になるには、学校が安全安心ではなくてはならないですし、地域があたたかくなければいけません。地域存続のためにはどのようなアクションが必要かを、みんなで考えていきましょう。(副議長 森万喜子)

おわりに(議長・大谷真樹)

今日は、生重さんにPTA目線、地域目線という、素晴らしい視点をいただきました。 教育改革というと、カリキュラムやツールなどに目が向きがちですが、地域と一緒に取り組んでいくことが欠かせませんよね。そうした意味で、非常にありがたいお話でした。私たも青森県の事例を学び、シェアしていきたいです。

先生方の中には地域と関わることに苦手意識を持っている方も少なくありません。その抵抗感を打破して、もっと頼れるような関係ができていくとよいですよね。見えない制約を外して、地域とつながる、校長同士でつながる、他の都道府県の先生ともつながるとなれば、新たな可能性が見えてくるのではないかと思いました。

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