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令和6年度 【第3回】青森県教育改革有識者会議レポートー北海道視察から青森県の教育を考えるー

2024年5月27日に、第3回青森県教育改革有識者会議が開催されました。本会議では、森万喜子副議長から北海道視察報告がなされ、その後、委員による意見交換が行われました。

▼第3回会議はこちらの動画でご覧いただけます▼
本記事では内容を一部抜粋して掲載しておりますので、ノーカットでご覧いただける動画も併せてご活用ください。


はじめに(大谷真樹議長)

北海道視察では、統廃合の危機を目前にしながら、改革を成功させ全国から生徒が集まる学校となった大空高校に訪問してお話を聞きました。また、学校に訪問することは叶いませんでしたが、同じく統廃合の案が持ち上がったところから復活を果たした三笠高校の立ち上げに携わった植井先生にもお話を聞くことができました。

本年度は、「人口減少における学校統廃合を含めた県立学校の在り方」が有識者会議の議論の大きな柱として挙げられています。学校の統廃合のあり方を検討する上で非常に参考になる2校ですので、森先生に事例をシェアいただいた上で、議論に入っていきたいと思います。

北海道視察報告①大空高校(森万喜子副議長)

全国的に人口減少・少子高齢化が進んでいます。先日、消滅可能性都市の報道がなされていましたが、青森県は最も人口の多い青森市のほか弘前市や八戸市など35の市町村で「消滅の可能性がある」と示されています。そうした人口減の中で、学校をどうしていくかは大きな課題です。

視察報告の1校目は北海道にある大空高校です。18年前に町村合併でできた、女満別空港のある大空町という町にあります。以前は町内に、道立の女満別高校と町立の東藻琴高校の2校があり、いずれも生徒減により定員割れの状況が続いていましたが、両校を統合し高校魅力化に取り組む町立の学校として再スタートし、令和3年に開校しました。1学年1クラスの高校です。

■大空高校の5つの「ない」

校長に大辻雄介さんが就任し、高校の既成概念をどんどん打ち破っていきました。その結果、大空高校には5つの「ない」ものがあります。
①定期テストなし
義務教育段階でも増えてきていますが中間・期末テストがなく、単元ごとのテストにしています。
②時間割なし
総合学科なので2年生は4単位、3年生は21単位分、自分で選んだ授業をとります。
③細かい規則なし
学校から校則を示すのではなく、生徒で話し合って決めていくこととしています。
④固定担任制なし
1クラスに2人の担任がいて、その2人の担任も持ち上がりではなく、毎年チェンジします。生徒がたくさんの先生と触れ合う機会を作っています。
⑤体育祭なし
学校行事をするかしないかは生徒会に委ねています。最近の生徒会は毎年体育祭実施を決定していて、「もっと回数を増やそうか」という話も出ているくらいなので、「体育祭なし」という表現は実態と違ってきていると教えてくださいました。

■大空高校の「ある」

①探究的な学び
探究的な学びがあることを最も強調していました。

②『仕事図鑑』
1年生では学校に関わりのある職業人にインタビューをして『仕事図鑑』という小冊子を作成。働くことや社会への貢献の仕方などを学んでいます。

③体験的な修学旅行
修学旅行先で地方創生を学ぶなどの体験を重視しています。

④高校生カフェ
大空町と連携して政策提言を行ったり、高校生カフェを開いたりと、社会に接続した学びを重視しています。

⑤海外短期留学支援
海外短期留学を推奨し、年間4名の生徒へ上限40万円を補助しています。

⑥国内長期留学支援
10万円の補助を出して、国内長期留学をサポートしています。

⑦公設寮
公設寮があり寮費は月1万5000円。食費は実費です。寮には大きめのキッチンがついているので、案内してくれた生徒は食べたいものを自炊していると話していました。

⑧公設塾
月2000円で通える公設塾があります。決まった教科を教えるのではなく、生徒の学習の相談に乗ったり、自分で学びたい内容を決めてそれをサポートしたりする塾だそうです。ここには2人のスタッフが配置されています。課題について尋ねた時には、「寮と塾と学校それぞれのスタッフがもっとうまく連携していくとより可能性が広がるかもしれない」とお話が出ていました。

教頭先生からは、「これまでの教育は人に牽引されていくような人材を育ててきたが、人生100年時代なので自分でエンジンを搭載して自分で飛べる『飛行機人』を育てていくことを大事にしています」とおっしゃっていました。海外留学への関心が高い生徒が多く、補助が出ることでハードルが下がっているといえそうです。

■町立の学校であること

町立のメリットは、人材登用に関して県立の縛りから外れることができること。学校が小さいとたくさんの教員を抱えることはできません。そこで「情報」の授業はオンラインで実施しているそうです。全国的に「情報」の免許を持っている先生はとても少ないため、それをカバーする施策となっています。デメリットは町立なので町の財政負荷が高いこと。そして、教員の人事は町立移管後も北海道教育委員会マターなので、要望が全て通るわけではないと言っていました。

地域の学校のため、コミュニティスクール化しています。学校運営協議会は年4回開催されました。高校入試においては、北海道外の生徒は30%まで。町内50%、町外50%の割合と定めているそうです。注目される学校の場合には、時に全国からたくさんの子が集まり、地元の子が入れなくなってしまうような状況が生まれます。そうした事態を防ぐ手立てとして、定員の枠組みを決めています。

【補足】大空高校の取り組みについて(藤岡慎二氏)

大空高校の魅力化に関わってきた藤岡慎二氏から追加のお話をいただきました。下記の第2回教育改革有識者会議も併せてご覧ください。

大空高校では、個別最適な学びを行なっています。生徒たちが自分の学び方を自分で選ぶことができるようにしています。先生から話を聞くスタイル、オンラインで学ぶスタイル、協働的に学ぶスタイルなどから選べるようになっています。一方通行の授業を聞いて成績が伸びたらいいのですが、成果が出なければそれは不満につながります。つまり、自分で決めたことでないことで不利益を被ると人は不満を抱くようになります。自分で選ぶスタイルは不安を持つことはあっても、不満を持つことはありません。もし「自分で学び方を選んでみたけれどなかなか学力が上がらない」と不安を抱いたら、自分で試行錯誤しようとしますよね。つまり、自己選択をすると他責に陥らない。個別最適化は一部の授業からスタートしたのですが、今では多くの授業で実施されています。

「世界と地域をつなぐ大空で路を切り拓く飛行機人になる」というコンセプトは、2040年や2050年の大空町の姿からバックキャスティングして、高校のあり方を考えていく中で決まりました。

また、高校魅力化の取り組み全般でいえることですが、先生方に余裕がないと、色々なアイデアを出したり何かをスタートしたいと思ったりすることは難しい。一方で、先生方に余裕が出てくると、様々なことに挑戦できるようになっていきます。つまり、高校魅力化は学校の先生方の働き方改革の成果として見ることもできると感じています。

【補足】大空高校の取り組みについて(大谷真樹議長)

公設寮は町がスタッフを雇用して、運営しています。「先生が管理していない」ということも重要ではないかと思いました。寮生活では随時トラブルが発生するものなので、その部分まで先生が担うと大きな負荷になってしまいます。

大空高校を訪問して、2つのポイントを強く感じました。1つ目は先生同士と生徒同士、先生と生徒との心理的安全性が確保されていること。フラットな会話が安心してできるような環境になっています。心理的安全性は全ての改革を行う上でポイントになると感じます。

2つ目は、校長の大辻雄介先生は民間出身で、豊かな教員経験を持った教頭先生がそれをサポートする体制をとっていらっしゃることです。民間人校長を登用した場合に、学校経験が豊富な方と共に改革を進めていけるような二人三脚の体制づくりをしていくことは非常に重要なポイントでしょう。

また、大空高校は総合学科のため普通科よりも教員数が多く必要です。青森県で生徒の関心に合わせた学びを保証する学校を作っていくためには、「多様な学び特例校」の制度を利用する道もあるかもしれません。

北海道視察報告②北海道三笠高校(森万喜子副議長)

続いて、北海道の三笠高校について報告します。現地の視察はかないませんでしたが、三笠高校の立ち上げに関わった植井真先生にストーリーを伺うことができました。

三笠市は昔は炭鉱町で栄えた町でしたが、現在は過疎化が進み、三笠高校も生徒減少が進んでいました。その結果、北海道教育委員会から統廃合の対象として挙げられていました。しかし、三笠高校を廃校にしないよう「市で運営する」と当時の市長が決定し、市立となって再スタートを図ることとなりました。その際に普通科ではなく、調理科にするという意思決定もなされました。

大空高校と同様に三笠高校も、首長がリソースを提供する覚悟を固めて作った学校です。道立でなくなるリスクもありますが、市立とすることで自由度が高い学校を作ることができるメリットもあるともおっしゃっていました。また、小さな町ですので継続的に応援してもらうためには、地域住民を味方につけることが必須だともおっしゃっていました。

植井先生は東京出身ですが、高校や地方の学校経営など様々な知見をお持ちなので、三笠市教育委員会に入り高校立ち上げに関わり、設立後は三笠高校が軌道に乗るまで勤務なさっていました。

■自分で目標を掴み取る力をつけるカリキュラム

スタート時点では、「1年後に開校すために生徒を集めること」が命題でした。高校は小中学校よりもずっと自由度が高いとお話くださり、その多様性を生かせば選ばれる学校を作ることも可能だと感じました。現在、三笠高校には「調理師になりたい」「パティシエになりたい」といった目標を持って入学してくる子どもたちがたくさんいます。

管理栄養士の資格を取るなど、より専門性を身につけられるように、「進学できる専門高校になる」と掲げ、普通教科6割・専門教科4割とカリキュラムを編成。また、与えられることに満足する生徒ではなく、自分で目標を設定して、そこに到達する力を身につけることを重視するような教育課程を作ったそうです。

「こどもまんなか青森」と青森県で掲げていますが、三笠高校も「学習者主体」であるということを重視しています。あれもこれも学校側がすべてを与えるのではなく、子どもたちが学びたくなる仕組みや授業作りを大事にしています。生徒たちは「人が笑顔になるようなお菓子を作りたい」「将来レストランを開きたい」といった夢を語り、それに対して三笠高校の先生は「それを叶えるにはどうしたらいいと思う?」と問いを返しているそうです。自分たちで考えて、自分たちで目標を掴み取ることを大事にしているのです。ある意味で、「放牧」のスタイルといえるでしょう。

生徒の全国募集は行わず、北海道中の中学校を1校1校訪問して、説明を行いました。まさに「営業」を大事にしたそうです。一期生が入学した時点では、準備が間に合ってないことに少しびっくりする生徒もいたそうです。だからこそ、先生方は「一緒に学校を作っていこう」と呼びかけて、生徒参加型で作り上げてきたということでした。

また、植井先生は「オリジナルが全てだ」ともおっしゃっていました。「 どこかが行なっていることをそのまま取り入れて、フランチャイズのような学校を作っても、行列の最後尾につくだけ。であれば、それはやらない方がいいでしょう」とお話しくださいました。ちなみに、三笠高校ではオンラインで予約しておせちを買えるサービスを行なっています。人気ですぐに売り切れになってしまうんです。生徒たちは作ったおせちを実家に持ち帰り、それを食べてお正月を迎える。そんな特徴が以前テレビで報道されていました。

■地域として学校存続の重要性を考える

市立として高校を運営するという意志決定がなされたのは、「三笠市を担う人を育てたい」ということも考えてのことでした。実際に三笠市に行くと、おしゃれなお店がぽつぽつとできていきました。聞くと、三笠高校の1期生がフィナンシェの専門店をオープンさせたり、カフェや食堂が作られたりしているそうです。こうした積み重ねによって、少しずつ人が増えていく状況が望めるのではないかとも感じました。

北海道には「市町村立の高校を設置する場合は道が支援する」と示されており、設置しやすくなっているというお話も聞きました。高校設置の際には、ニーズの調査が重要ですし、どんな学校にしていくかというビジョンも大事でしょう。「今存在する学校が10年後もあり続ける」と思っていてはダメで、絶えずアップデートしていかなくてはいけないと改めて思いました。

町から高校がなくなるとどんなことが起きるかというと、まず交通インフラがなくなってしまいます。通学用のバスが減便や廃線になり、人が移動しなくなります。そして、制服やジャージ、スポーツ用品を買う顧客がいなくなるので商店がなくなりなす。高校生のバイトもいなくなってしまうので働き手もいなくなります。そして、あっという間に町は何もない地域になってしまうんです。そして、1度廃校になった学校を蘇らせることは非常に難しい。このタイミングで危機感を持って、「高校をどうしていくか」を考えないといけないといけないと感じています。

【補足】三笠高校の取り組みについて(大谷真樹議長)

大空高校も三笠高校も首長の覚悟とそれを推進した人の「こういう学校を作りたい」という哲学があると感じました。新たな学校を作っていくにはデザインは不可欠ですし、それを推進する存在も必要です。

一方で、キーマンに依存することがリスクになる側面もあり、「大辻先生だからできた」「植井さんしかできない」となってはいけません。持続可能なデザインが重要です。校長先生が変わったら形状記憶合金かのように、昔に戻ってしまうことがよくありますが、それではあまり意味がないと思うんです。大空高校や三笠高校のように具体的なイメージの伴うブランドを構築していくことがポイントだと思います。そのブランドイメージを中学生に伝えていくことが、持続可能な学校づくりにつながっていくのではないかと思っています。

委員による意見交換(敬称略)

■学校の特色化のメリットと留意点

学校を特色化して、学ぶ内容が明確な高校が北海道には多い印象です。そして、その学びを求める生徒が集まってくる。これは大きなメリットです。一方で、特化しすぎると地元の生徒が行きにくくなる可能性があることはデメリットだといえるかもしれません。ただ、最近では特色化した高校が地元の子どもたちからも人気が出ているという話も聞くので、そうした学校に何が起きているのかはさらに調査したいと思っています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

学びには選択肢があった方がいいと思っています。現在は幕の内弁当のように決まりきった折り詰めのようになってしまっている。そうではなくて、自分でビュッフェ形式で選ぶことができるとよいのではないでしょうか。決まりきった固定化された学校は選ばれなくなっていくように感じています。(副議長 森万喜子)

■学校の特色を定着させるには

茨城県では公立中高一貫校に民間から公募した校長を配置しています。体制としては、1年間は副校長をして学校文化に慣れて、その後3年間校長をすることとなっています。また、継続を認めるとしているので、ある程度長期戦が可能になってくるのではないかと思うんです。だから、腹をくくって学校作りに専念できる。 この校長任期の考え方は、各都道府県ごとに異なります。1、2年で変わってしまうことで改革がなされるのか。青森県として、どう制度設計をしていくのかを考えていく必要がありそうです。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)

カリキュラムマネジメントがなされなければ、どんなによい改革ができても定着しないと考えています。先生方の異動があるので、立ち上げメンバーがいるうちは持続しますが、入れ替わると消えていってしまう。属人化の問題を解決するためにも、カリキュラムマネジメントは重要な手立てではないかと思っています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

カリキュラムマネジメントは働き方改革と表裏一体です。青森県の先生方からは忙しくて余裕がないといった声がアンケートからも出てきています。カリキュラムマネジメントをすることで、働き方改革が進み、余白ができていきます。 働き方改革がなされていないということは、クローゼットに大きさがまちまちな箱がたくさん詰まっている状態です。まずはそれらの箱をすべて取り出して、重複なく詰め直すことが大切です。「テトリスみたいなものですよ」と学校現場ではよくお伝えしています。「この学習内容はこの教科で勉強しているね」と整理しながら進めていくと、学校独自のカリキュラムができ上がります。 そういったことを考えないで、教科書会社が作った年間指導計画通りに進めようとするとどんどん疲弊してしまいます。特に高校は自由度がとても高いのだから、カリキュラムマネジメントの頑張りどころではないかと思います。(副議長 森万喜子)

高校の特色化もとても大事ですが、その前の小学校・中学校での過ごし方・学び方があってこそ、「自分は高校でこんなこと学びたい」という思いが湧いてくるのだと思います。子どもたちの発達段階に応じた動機付けを大切にしながら、体験値を上げていく方法を総合的に考えていく必要があると思います。つまり、全ての学び場の魅力をうまく引き出していかなければいけません。住民も学校関係者も教育委員会も、町全体で考えていけるといいですよね。(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長 生重幸恵)

青森県でも県立高校を町立や市立へ移管する案が提示されたことがありました。その際に、自治体へ相談をしたのですが、困難さが先立ってしまい、うまく話が進みませんでした。思いついてすぐ実行というわけにはいかず、明確な制度設計が必要だと思います。もし、青森県に大空高校や三笠高校といったモデル校ができたら、触発されて周りの学校も変わっていくのではないかと希望を抱いてます。これまでのあり方を全否定するわけではなく、時代に合わせてアップデートする部分を見定める上で、大空高校と三笠高校の取り組みは非常に参考になりました。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)

今回取り上げた2校は、校長先生や管理職、そして先生方も腹が座って、新たな学校を作っています。そして、何よりも自治体の首長の腹が座っている事例だと思うんです。首長が地域のグランドデザインを描いて、その中で「高校がなぜ必要なのか」「どう必要なのか」をとことん考えていました。北海道全体にどんな効果があるのか、地域にはどんなインパクトがあるのか、そして、生徒や先生方の幸せにおいてはどんな意味があるのか。大空高校も三笠高校も学校の特色の打ち出し方は異なりますが、この根底の部分は共通しています。首長がどんなビジョンを描くかで、打ち出す手段は変わっていくということだと考えています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)

新たな学校づくりには予算が必要ですが、その際には文科省だけでなく、さまざまな補助金の知識を踏まえて考えていきたいですね。例えば、上川町では総務省の予算で地域おこし協力隊を「教育プロデューサー」という名称で学校現場と地域・民間をつなぐ役割として入れています。これにより、コーディネーションの役割を担っていた先生の負荷を下げています。他にも、経産省の予算や国交省の予算などもきちんとおさえていく必要があります。また、鎌倉市ではガバメントクラウドファンディングを運用しています。そうした情報にもアンテナを立てていくと、予算の考え方が変わっていくはずです。(議長 大谷真樹)

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