令和6年度 【第8回】青森県教育改革有識者会議レポートー「青森県の教育に関するアンケート(教職員・こども向け)」の結果についてー
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本記事では内容を一部抜粋して掲載しておりますので、ノーカットでご覧いただける動画もあわせてご活用ください。
アンケート調査報告(マーケティングジャンクション吉澤隆氏より)
教職員向けアンケート結果
はじめに調査概要を報告いたします。期間は、2024年7月22日から9月1日。教職員向けは昨年度に続き2回目の実施です。内容は、有識者会議の認知、業務改革の進捗状況、心理的安全性の状況、地域との連携、授業の在り方、県立高校における入手制度などについてです。回答者数は約4000人。想定よりは少ないですが、調査の精度を確保するために必要な人数は確保できています。
有識者会議の活動の認知度
有識者会議の活動の認知度については、70%の先生方が「知っている」と回答しました。特に、20代の教職員の認知率が37%と低い状態です。一方で、認知率が高いのが50代・60代で75%以上という結果となりました。年齢が上がったほうが有識者会議について認知しているという状況が見えました。
続いて、「本会議において議論している内容を知っていますか」という問いに対しては、約55%が「知っている」と回答しました。また、職位別に見ていくと、校長・教頭がよく知っており、それ以外の一般教員の認知度は50%を下回っています。
「認知メディア」について尋ねたところ、全体の80%が「新聞・テレビ等」と回答しています。30代の先生はYouTubeで観ていました。
昨年度からの業務改革の動きについて
「所属する教育の現場において、昨年度から業務改善の動きはありますか?」という問いについて、54%が「ある」と回答しています。認知度と同様、年齢が低い人ほど「いいえ」と答え、高い人ほど「はい」と回答している傾向が見えます。職位別の回答状況は、校長・教頭は85%が「ある」と回答し、そこに一般教員(50%)、その他(35%)と続く結果となりました。
具体的な業務改善がなされたジャンルは、「ICT教育・環境」が14%、「手続き・事務」が13%、「学校行事」10%、「部活動」9%となりました。
一方で、「業務改善がなされた」という回答がされていないジャンルは、「不登校について」「多様性について」「教育委員会」「子どもの自由意思・個性」「社会・地域」「障がい」「人権」「進路」「受験」「教育の偏り」「いじめ」「授業選択・コース」などが並びました。
つまり、教員自身の働き方改革については進捗があったものの、その影響がまだ子どもたちの学びの改善にまでは出てきていないといえるのではないでしょうか。
また、イメージ的に掴んでいただくためにどんな言葉が出てきているのかをワードクラウドにまとめています。大きな文字で出ているのが回答数が多かった言葉です。「勤務時間」「部活動」「会議」「行事」「減る」などが大きく出ていることが見て取れます。
同時に使われる言葉を抽出する「共起分析」も行っています。「電話対応」×「勤務時間」、「行事」×「見直し」、「教員」×「配置」×「スクールサポートスタッフ」などがつながりのあるワードとして登場しています。
自由記述をAIに分析させて分類しました。基本的に、棒グラフの長さで出現率の多さを把握できます。「勤務時間の改善」「業務の簡略化」「ICT導入・活用」など、先述した内容と近い結果が見てとれます。
また、下記に「勤務時間の改善」や「業務の簡略化・削減」といったカテゴリ別に代表的な回答をまとめています。
心理的安全性について
「学校や職員室の中で、自由に対話する雰囲気はありますか」という質問項目から心理的安全性について調査しました。年齢差はあまりありませんでしたが、職位別での差は大きく出ています。校長・教頭は90%が心理的安全性が「ある」と回答しており、一般教員が68%、その他の職員が58%となりました。
心理的安全性が「ある」と回答した方からは、「職員室の雰囲気が良くなった」「意見が言いやすくなった」「コミュニケーションが増えた」「話題がなくても話しかける」といったコメントが見て取れました。
一方で、心理的安全性が「ない」と回答した人たちの意見からは、「管理職の人の態度が良くない」「校長が気を遣ってくれない」「意見を言う雰囲気がない」といったコメントが見られました。
また、心理的安全性が「ある」と回答した人の自由回答を、AIが分類した結果が下記の通りです。
一方で、心理的安全性が「ない」と回答している方のコメントを見ると「対話の場が批判や不安の発露となっている」「自由に対話する雰囲気もあるが、批判的な発言をする方も多い」「(職員室の雰囲気について、)静かすぎて話しづらい」といった内容が見てとれました。
地域連携について
地域連携について、「大いにできている」「概ねできている」の合計は86%で、肯定的な回答が多くなっています。
授業の在り方について
「小・中・高・特別支援における授業の在り方について」でもワードクラウドを使って、どういったコメントがあったのかを抽出しています。
傾向としては、必要性と課題をセットで述べている人が多かったです。例えば、「教員数の不足と増員の必要性」といったイメージです。下記に自由記述の傾向の分類をご紹介します。
県立高校における入試制度について
県立高校における入試制度の在り方についても、自由回答で聞いています。入試制度の改革・改善を解説的に語っているコメントが多く見受けられました。テーマごとに代表的な発言を集めているのでご覧ください。
人口減少下における学校統廃合を含めた県立学校の在り方について
「人口減少下における学校統廃合を含めた県立学校の在り方」について聞いた項目では、差し迫った問題ではないと感じている方も少なくないようで、「〜と思う」といった感想を書いている方が多かったです。
教職員向けアンケート全体要点
「有識者会議設置の認知・議論内容の認知・認知メディア」に関しては、全体として7割は認知していますが参照メディアは新聞・テレビが占めています。そのため、内容の深い理解にまで至っているとは言い難いのではないかと思います。校長・教頭の認知率は特に高かったものの、noteなどで詳しく知ろうという姿勢は数値上は見えませんでした。一部、若手でYouTubeの閲覧が増えたことは良かったポイントといえるでしょう。
業務改善については、全体として半数以上が「改善が進んでいる」という実感を持っています。ここでも特に校長・教頭の実感率が高く出ています。業務改善内容は、「ICTの導入・手続き事務の改善」や「行事の精選」などが挙げられています。この結果は素晴らしいことですが、「不登校」「多様性」「子どもの自由意思・個性」「社会・地域」などに関しての改善はほぼ0%となっています。児童・生徒への直接的な取組はこれからの課題であるといえそうです。
続いて、「心理的安全性」についてです。「自由に対話する雰囲気」は全体の70%の先生が「ある」と回答していますが、職位別に見ると「校長・教頭」「一般職」「その他」という順番になっており、認識の差がある可能性も指摘できます。
児童・生徒向けアンケート結果
児童・生徒の回答結果は下記の通りです。注意事項としては、特別支援学校の回答者数が81名なので、誤差が大きくなっています。また、同じく特別支援学校については、子どもたちの回答を基本としていますが保護者の方が代筆しているケースも見てとれたので、その前提を持って回答をご確認ください。
学校満足度
「学校に行くのが楽しいですか?」という問いに対して、「とても楽しい」「まあまあ楽しい」を足すと約80%の子どもたちが「楽しい」と回答していることが見て取れます。小学生が最も高く、年齢とともに次第に下がっていくことが見て取れます。
学校に満足している子どもたちがどんなことに楽しさを感じているのか、コメントで確認すると、「友だちと会えるのが楽しい」「友だちと話せるのが好き」「遊ぶ」といった言葉が多く見られました。「遊ぶ」に関しては、小学生に多く見られた言葉になります。
下記は、小学校・中学校・高校という属性との関わりを含めた共起分析です。小学校・中学校では「遊ぶ」「遊べる」は強く出ていますが、高校になると、その言葉は見られなくなります。
続いて、学校が「楽しくない」と回答した子どもにその理由を聞きました。ワードクラウドと共起分析からは、「勉強が楽しくない」「いじめ」「苦手なことはやりたくない」「友達との人間関係がうまく築けない」「先生がおもしろくない」「校則が厳しい」「朝起きるのが苦手」といった言葉が見て取れます。
学校別で確認すると、中学校・高校の方が「人間関係」「怖い」という言葉のつながりがあることがわかります。小学生では、「宿題」「いじめ」「担任の先生」といった言葉のつながりが特徴として表れました。
自由記述を見ていくと、「友達との関わり」や「授業の楽しさ」といったコメントも多いです。一方で、「勉強への不満」「ストレスや疲れ」といった記述も見られました。
心理的負担
「学校生活を送る上で、あなたにとって心理的負担・ストレスになっていることはありますか」という質問に対しては下記の結果となりました。小学生に関しては、心理的負担は少なく出ています。全体としては、「テスト」「宿題」などの学習面の負荷に続き、「生徒間の人間関係」が挙がっていました。その他として、「ストレスがある」「検定が大変」といったコメントも見られました。
相談経験
「学校生活における悩みや不安、不満について、相談する相手はいますか」という質問をしました。年齢が上がるにつれて、「悩みや不満はない」と回答する生徒が減少します。しかも、「相談するほどではない」と諦めている割合も上がります。相談する相手が「いる」と回答している子は、校内外に相談相手がいる傾向が見て取れました。
授業について感じていること
授業について感じていることとしては、1位が「難しい」。続いて、「おもしろい」「好きな科目をもっと勉強したい」「学ぶことが多すぎる」といった回答が並んでいます。
ワードクラウドを見ると、「授業について感じていること」については、「先生」の影響力が非常に大きいことがわかります。
授業について感じていることについての自由記述をより細かくカテゴライズすると、「授業の内容が理解できない」「先生の態度・授業進行に関する不満」「授業中の環境や雰囲気への不満」などについて挙げる子どもたちが多かったです。
自己肯定感を感じるとき
「学校生活の中で、うれしい!やった!と感じる時はどんな時ですか?」という質問から、自己肯定感を感じる瞬間を抽出しています。子どもたちの回答では、「テストや評定が良かった」「授業がわかった」「友達と協力できた」といったことが上位にきています。
作りたい学校
「作りたい学校」についての質問には、「いじめがない学校にしたい」といった表現をする子が多かったです。また、「校則が自由に作れる」「不登校になる子がいない」といった記述も見られました。
また、共起分析においては、「学校行事を自分たちで実行する」「学びを選べる」といった自主性が表れたコメントが見られました。
「作りたい学校」についてコメントを分類しています。一番多かったのは、「いじめ防止・平和な環境」です。続いて、「自由な校則」「学びたいことを選べる」といった言葉が続きました。子どもたち自身が自由や選択肢を求めていることが見て取れる結果となりました。
児童・生徒向けアンケート全体要点の報告
学校満足度に関しては、「とても楽しい」「まあまあ楽しい」の合計が80%となりました。高校生になると、「とても楽しい」と答える割合が27%と下がり、学年が上がるにつれて楽しくなくなっていく傾向があることがわかります。また、学校満足度の理由としては「友達との関わり」「授業の楽しさ」などを挙げる子どもたちが多かったです。
「授業について感じていること」については、「難しい」が多く、「おもしろい」「学ぶことが多すぎる」といったコメントが並びました。
「作りたい学校」は、「いじめがない」「校則が自由」「学びたいことが選べる」といったコメントが特徴として表れました。
昨年のアクションから、最初に先生たちの業務改善を進め、時間的なゆとりを作るという動きは見えはじめています。その点は継続しつつ、次の段階として、児童・生徒の学校生活をどれだけ向上させられるかという点を見据えていくことも必要な段階にきているように思います。
また、「心理的安全性」の部分に関しては、校長・教頭は「心理的安全性がある」と回答しているのに対して、現場の先生の数値とは乖離が出ています。実際のところ、どれくらい心理的安全性が浸透しているのかという点においては、さらに見ていく必要があると感じています。
委員による意見交換(敬称略)
■調査の総括
今回の調査では教職員向けは約3割程の回収率でした。その理由を深読みしていく必要があるのではないかと思っています。例えば、僕は回答しなかった7割の中には、「改革はどうせできないのではないか」という諦めの層がいるのではないかといった見方をしています。そのため、調査結果に関してはあくまでも教育改革への意識が高い、関心のある人たちの回答であるといった読み方をする必要があると考えています。
今年度初めて実施した子ども向け調査では、素直な答えを聞くことができてよかったと感じています。特に小学生はリアルに学校に行って、友達と会って楽しく学ぶことが1番の喜びなのだということを改めて理解することができました。「テクノロジー」や「オンライン」といった手段も登場してきていますが、子どもたちの楽しみの根幹は友達と会って遊ぶこと。こうした良さを残しながら、いかに学びの質を高めていくかが重要だということも再認識しました。
教職員に我々の改革の声をいかに届けていくか、そして、子どもたちにつながっていく業務改善をどう行っていくかという、来年度に向けた方向性も見えてきました。(議長 大谷真樹)
■自己肯定感について
児童・生徒アンケートについての自己肯定感の項目で大変興味深かったのが、「意見を聞いてもらえた」「授業で発表した」「先生に質問して返ってきた」といった、教師と生徒の双方向性のあるコミュニケーションを挙げている生徒がいたことです。特に教員側からのフィードバックの部分はとても大事だと改めて感じました。例えば、「いいところに気づいたね!」と子どもを肯定するやり取りを大事にしていく。こうしたことをいかに授業に盛り込めるかが大事なポイントであると感じます。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)
学齢が上がるにつれて自己肯定感が下がるのは、青森県だけの問題ではなく、全国的に見られる傾向です。だからこそ、年齢が低い段階で、どう子どもたちを勇気づけるような関わりができるかが大切だと思うのです。解決できない問題をどう一緒に考えていくか。「ネガティブケイパビリティ(現時点では解決できない事態に耐える力)」への向き合い方を学校の中で伴走しながら養っていくことができるとよいのではないかと思っています。
また、先生と生徒のコミュニケーションのあり方については、改善していくことができる要素ではないかと私は思っています。子どもたちが「本当は何をしたいのか」などを自分で気づけるようなコミュニケーションにしていくことができると思うのです。そのコミュニケーション改善施策の中に、子どもの自己肯定感向上や業務改善のヒントがあるような気がしています。(フリースクール全国ネットワーク元代表理事 江川和弥)
■業務改善について
子どもたちから、校則や学びのスタイルなどについて「自分たちに委ねてほしい」という声が出ています。「自分たち」というワードが大きく出てきていますよね。ただ、教員が余白を作っていくことで子どもたちの学びが変わっていくのですが現状そこまでつながっていません。「不登校」「多様性」「人権」「障がい」「子どもたちの選択」などの項目がほぼ0%の改善に止まっている点については、すごく深刻だと感じています。
どうしても子どもたちへの取り組みまで改革が落とし込まれるにはタイムラグがあります。しかし、これをなるべく短くしたいですよね。「この子たちには間に合わない」で通りすぎたくないので、私は頑張っていきたいと思っています。
ちょっとしたことなのですが、子どもに関わる全ての大人の意識が変わるとよいのではないかと思うんです。昨年と3年前と10年前と同じではなくて、「こうやって変わっていこう」「私たちの認識を変えなくてはいけない」と変化させていく。これは政策を待たずともできることなので、意識を変え、ちょっとした行動の変化からスタートしてほしいと思っています。(副議長 森万喜子)
業務改善で「実感がある」という回答の内容を見ていくと、「自動採点システムによって効率化された」といったコメントがちらほらありました。残念ながら、これは一部の自治体の話です。この結果を成果として受け止めつつも、「全学校で」業務改善が進んでいるわけでは決してなく、まだらに進んでいることを念頭に置く必要があります。
とはいえ、業務改善については特に勤務時間が削減されているという結果が出ています。おそらく県教委や各校長先生、現場の先生が工夫や努力をなさったことが反映されてるのだと考えています。(議長 大谷真樹)
■心理的負担
中・高生と学齢が上がっていく中で「心理的負担」が増していることが見て取れました。こうした心の負担を解決できなくなり、学校以外に居場所もない状態となれば、不登校や引きこもりになっていくことも想像できます。そうした意味で、第3の居場所となる選択肢を用意していく必要があるのではないかと思います。(議長 大谷真樹)
心理的負担に関しては、いわゆる進学・就職の進路の問題が大きく影響しているのではないでしょうか。また、私たちが想像しているよりも、高校における生徒間の人間関係が厳しい状況にあるということも感じました。誰ともコミュニケーションできない・つながれない子どもたちが、高校の中にも一定数いて、その子たちが深刻な問題に陥っている可能性があるのではないかと感じています。高校生に求められるサポートについては、一つの大きな議論となると考えています。(フリースクール全国ネットワーク元代表理事 江川和弥)
1人1人違っていて当たり前という点を学校ではもっと認められるような雰囲気があるといいですよね。以前、文科省の合田哲雄文化庁次長は、「好きを諦めて苦手を克服するような指導を学校はしてきている」とおっしゃっていて。もっと好きなことにグイグイと取り組んでいたら、その子なりの良さや自己肯定感が醸成されてくるのではないかと思うんです。学校で長らく行われてきた「みんな一緒に」「足並みを揃えて」という、大人の意識を変えることが重要ではないでしょうか。(副議長 森万喜子)
京都芸大付属高校に視察に伺ってきましたが、「好きを諦めて不得意を克服するような教育」とは真逆の「好きをさらに輝かせていこう」という柔軟性のあるカリキュラムにしていました。当校のコンセプトは「新普通科」です。教科学習の重要な部分も効率的に行いながら、探究学習や色々な創作活動を豊かに用意しています。キャリアにつながるようバランスよく学びが配置されているいい学校だと感じました。僕らもさまざまな工夫をしながら、もっと子どもたちを肯定していくような取り組みができるのではないかと思いました。「青森型の新普通科」を県として考えるべきではないかと思いました。
(議長 大谷真樹)
【これまでの青森県教育改革有識者会議の内容はコチラから】