【第4回】青森県教育改革有識者会議実施内容まとめ
はじめに
開会にあたり、議長・大谷真樹から調査ご協力への感謝と有効回答数の報告がなされました。
「青森県の教育に関するアンケート調査では、約5,700人もの教員の皆様にお声をいただくことができました。私たちもすべて確認をしますし、知事も全部目を通すとおっしゃっています。 皆様のお声を大切に議論を進めていきます。
一方で、5,000人程には回答をいただけていません。短い期間でしたから物理的に忙しく、回答できなかったという方もいらっしゃると思いますので、フォームはクローズさせずに引き続きコメントをお寄せいただけるようにしています。ぜひお声をお聞かせください」
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記事内の図版の文字が小さいため、詳細なコメントを確認したい方はぜひ併せて動画もご覧いただけますと幸いです。
アンケート調査分析速報(マーケティングジャンクションの吉澤隆氏より)
調査概要
通常のアンケートでは項目ごとに回答数を算出します。もちろん本調査でもそれは行いますが、今回は定性分析をすることで質的に捉えていくことをより重視しました。これにより、コメントから感じ取れる深刻さや切実さをより把握しやすくなっていると考えています。また、生の声からビジュアル的に傾向を捉えやすくしたコンセプトマップを作成し、そこから仮説や疑問点などが生じた際には現場の生の声に立ち戻れるような設計としています。
コンセプトマップの解説
下記の「教員活動を阻害していることや無駄な作業」のコンセプトマップをご覧ください。出現率の高いワードが大きくなっているので、全体のイメージを掴むためにご活用いただけます。なお、今回の調査では名詞・複合語を抽出してコンセプトマップを作成しています。
周囲のピンク・オレンジ・ブルーの円がジャンルです。このジャンルに対する代表的なフレーズを外枠に箇条書きで示しています。さらに、円の外側にはコメントサマリーが並びます。
中心部の単語→ジャンル→フレーズ→コメントサマリーと、深掘りできるような仕組みです。
マップの補足として、ジャンル別にコメントを紹介します。傾向を把握するためにご活用ください。
「教員活動を阻害していることや無駄な作業」についての分析速報
今後の改善につなげるために、「教員活動を阻害していることや無駄な作業」について分析した結果を報告します。ここでは特に特徴的に見えた違和感ともいえる2つのワードを掛け合わせて紹介します。一つは「ビルド&ビルド」で、もう一つは「無駄なことはない」というワードです。この2つの言葉は、現在の青森県の教育の状況を理解するヒントになっているのではないかなと考えています。
「ビルド&ビルド」は、「スクラップ」をせず古い慣習や仕組みの上に、新たな取り組みや課題を上乗せしていることを指しています。実際にほとんどの回答に、業務量の過剰、教員の多忙、人員の不足が書かれていました。具体的には、「ICT など、新たなことを取り入れていかなければならないが、今までの仕事もそのままなので、やらなければならないことが増えていくばかりになっている」「増えていくばかりで、減ることがない」などのコメントが見られます。
一方で、「無駄なことはない」と回答した方もいらっしゃいました。自分たちが取り組んできたことは意味のあることであるという意見なのではないかと見て取れます。大切なことばかりだからこそ一生懸命打ち込んでいるのだが、そのための時間がどうしても足りないというような表現が見て取れました。
これら2つのワードから、部分的に良いことを重ねていった結果、全体で見ると大きな負荷になってきているという現状があるのではないかと考えています。
確かにスクラップをする必要はあるが、その中にも取り組みを始めた人の思いが込められているのだということを念頭に置いておく。大前提としてこの構造を踏まえた上で、改革を進めていく必要があると捉えています。
ジャンル別の傾向
補足として、ジャンル別で見た際に読み取れるポイントを紹介します。例えば、「書類」作成作業の負担や「会計」業務。会計業務の中でも給食費の未納が生じた場合、家庭への連絡を行なっているなど生々しい状況が述べられています。また、「ICTスキル」に関しても声があがっています。「『ICT は若い人の方がわかるからお願いね』と言われて負荷が増える」というコメントがあり、これは本人にその意識がなかったとしもパワハラにもなりかねない事態だと感じました。こうしたことに対して、断れないような状況があるのであれば、職場の心理的安全性が担保されていないという課題も見えてくるかもしれません。
そのほかに、「見守り・引率」「外部からの依頼」「調査」などの項目が挙がりました。
委員による意見交換(敬称略)
■学校の業務負荷をどう減らすか
調査結果を見て、「仕事を減らす」ということがまずは大事なのではないかと強く思いました。ビルドの前にスクラップをしていくことから始めないと、現場の賛同は得られないように思います。私たちとしては、何をスクラップするのか、どうやってスクラップするのかを、決めていく必要があると考えています。(スパイスアップ・アカデミア代表取締役 森山達央)
①行事を含めた総業務量削減・優先順位付け、②教員の資質・能力の向上、③仕組みによる解決 という3つの打ち手が必要ではないかと考えていました。
①行事を含めた総業務量削減・優先順位付け
これまで一生懸命取り組んできた先生は必要だからやってきたんですよね。だから調査に出てきたように、「無駄なものはない」という先生がいらしゃるのは当然です。しかし、行事を含めて総量を削減しないとこれ以上は立ち行かないので、どうやって優先順位をつけるかということが重要なんです。ポイントは「毎年見直しをかけていますか?」ということです。見直しの視点が抜けてきたからこそ、業務が積み上がっていったのではないかと思います。
②教員の資質・能力の向上
ICT に関しては、教員のスキルに関する問題も大きいでしょう。 ここの部分は特効薬はないので、意識の変容とスキル向上に向けて、時間はかかるけれど手を打ち続ける必要があるだろうと考えています。
③仕組みによる解決
会計の問題などは制度的に解決しなければいけないと思いました。 このあたりはテクノロジーの力を使うことが有効ではないでしょうか。とある他県の学校では、学校の備品はすべてネットで買えるようにしていると聞きました。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)
地域行事についての配布物を渡されるといった、学校外から「学校に頼んでおけばいいや」と思われている作業がありますよね。学校のスタッフが配布物をクラスごとに分けて子どもたちに配るような業務が生じています。小さなことですが、学校に依存し過ぎている状況にも問題があると感じています。(副議長 森万喜子)
青森県の教員の不足の問題でいうと、採用試験において特に小学校は1.0倍に近い低倍率です。全員採用したら枠が埋まるかというとそういうことではなく、産休補助や病休補助など臨時講師の先生方がいなくなってしまうんです。だからこそ、ゼロベースでものを考えて、人がいた時に設計されたような取り組みはもう一度見直していく姿勢を持たなければ、現場は回っていかないと思います。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)
※参考
■会計業務の仕組み化
小規模自治体では広域事務組合を組んでいるので、教育においても一つの自治体や一つの学校で担おうとするのではなく、そうした自治体間の連携を利用する方法もあるのではないでしょうか。例えば、教育委員会で指導主事を置けない場合には小さな自治体で集まって置いているというケースもあります。そうした発想から、システムの統合なども進めていきやすくなるのではないかと思います。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)
給食費や修学旅行費、部費など会計業務が学校の中にはたくさんあります。その負担感は大きいですよね。例えば、部費は「これまでも集めてきたから」という理由でよくわからずに怯えながら徴収している先生もいるという現状です。そうした状況を生まないためにも、まずはロジを固めてあげることが大事ではないでしょうか。そこから着手した方が先生方の負担感が小さくなり、次なる新しい一手が打てるのではないかと思っています。(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校 日野田直彦)
■部活動への業務負荷
部活動では、指導に対する負荷だけでなく、競技によっては競技団体の選手登録をしないと大会に出られないといった手配作業があります。中体連管轄の大会だけでなく、自治体が開催している市民大会などもあり、顧問の先生は対応に苦労していると感じました。(副議長 森万喜子)
青森県の事情をお話しすると、部活動の負荷が大きくなっているので軽減が必要という流れはもちろんありつつも2026年に国体が開催されるのでそれをなんとかやりとげなければならないという意識が働いている傾向もあります。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)
率直にいうと、伝統ある大会だからといって、このまま続けていくんですかという疑問は湧きました。持ち回りで、自分のところで開催するからなんとかしなくては、と様々な県が躍起になっているんでしょう? 開催地になって、大変な思いをしている自治体も少なからずあるのではないでしょうか。(副議長 森万喜子)
子どもの数が減って、1つの学校で集団競技のチームを維持することはもうできなくなっています。そして、これからは一層厳しくなっていく。他にも、審判の先生方の高齢化が進んで、夏の試合で真っ先に運ばれるのは先生方といった事態も起きています。 教員採用試験に人が集まらない大きな理由の1つが部活動だと思います。
こんなことを目の当たりにしていれば、みんな薄々は「もう保たない」とは感じているはずなんです。だから、先生方だけでなく、高体連や中体連の方々、各専門部会の委員の方々にも集まってもらって、全員で腹を割って話し合わないといけないと思うんです。僕らが作ってきたことが10年後につながっていきます。責任を持ってやっていかなければ、10年後現場に立つ先生がいなくなってしまいます。(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校 日野田直彦)
部活動は一人一つしか入ってはいけないのかという観点と、これは一年中やらなければいけないのか、という点に疑問を抱きました。海外の学校などに目を向けると、シーズンごとに変わっていくケースも多いですよね。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)
以前話を聞いて「部活動は必ず入らなければいけない」という地域があって驚いたんです。部活動は教育課程外のことなので、やりたい子は入ればいいし、やりたくなければ入らなくたっていいですよね。学校のサイズが小さくなっていけば、たくさんの部活動を維持することはできない。だから、選択肢が狭まります。だから、入りたくないこともあると思いますよ。自分が管理職だった時は、「部活動入ったからには3年間続けよう」などとは言ってはいけませんと伝えていました。毎年変わったっていいじゃないですか。3年間続けることで、進路決定における何かインセンティブがあるような言い方は絶対してはいけないと伝えていたんです。(副議長 森万喜子)
うちの学校も部活動を辞めたんです。海外のインターナションスクールのように、アクティビティという形式にして学校から切り離しました。校内ではかなり議論をして。当然、先生方の納得解を得ることは大変でしたが。合意を得ながら、トランジションすることが大事ではないかと思います。(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校 日野田直彦)
※参考
部活動が進学の材料になっていることもあるんですよね。 他県の公立高校のあるコースの募集要項を見ていたら、推薦もしくは推薦に準ずるような入試方法において、中学校の部活の活動の実態を加味するという明記があったんです。公立高校で部活動の実態を選抜要件に入れるのは問題があると思います。
もう一つ異なる観点でいうと、「部活動イコール生徒指導」という意識を持ってらっしゃる先生方が多いんです。3年続けて部活動をしていると、顧問の先生のいうことを聞くようになり「押さえが効く」という発想になっていく。勝ちにこだわる顧問の先生もいるので、根深い問題ではあるのですが、シーズン性や複数選択できるような体験の場があることは子どもたちにとってメリットがあると思います。(未来教育デザイン代表社員 平井聡一郎)
部活動は生徒指導をなくすために、いわゆる放課後に生徒たちが街をうろつかないためにやっているような側面もありますよね。デンマークを見てきた時に、同じように学校は3時くらいに終わるのだけれど、学校に紐づかないスタイルで放課後学校があるんです。そこでは、子どもたちがそれぞれのニーズに合わせて集まって、ラップや編み物や外国語などを勉強していました。地域からそれが得意な人が集まって先生をしているんです。自分たちでやりたいことを実際にやれる空間が用意されていて、とてもいいなと感じました。「生徒指導減るから部活をやらせよう」という発想で先生方の負荷が増えているのであれば、地域で吸収していくという方法もあるのではないかと思いました。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)
社会教育と学校教育がうまくつながってないというのが多くの自治体で見られる課題です。学校が終わってから行ける図書館などの社会教育施設があって、そこで自由に過ごせるようにしておけばいいのではないでしょうか。生涯学習の教室に行ってもいいですよね。現状は、テスト前の高校生がファストフード店や公共施設で何人かで勉強していると、そのうちに「ここでの勉強はご遠慮ください」という貼り紙がなされたりするんです。子どもたちに勉強するなっていう風潮はどうなのよ、と感じました。(副議長 森万喜子)
■行事の精選
今回の調査結果のコメントを全て読ませていただき、地域で独自で発展している学校行事もあり、そこへの負荷も考えていく必要があると感じました。例えば、小学校が全校集まって全体運動会のような大会を開いています。 大会に出るまでに朝練を行っているのでそこで業務が増えています。また、全市の連合音楽会というワードも出てきていました。一日かけて集合するということ、そしてそれに伴う長期間の練習時間は、業務的に圧迫感があるということがコメントが散見されました。こうした行事を洗い出しいく必要があるのではないかと思っています。(弘前大学教育学部教職実践専攻・教職大学院教授 三戸延聖)
「その行事は何のためにやるのか」という議論を、生徒と教員でできるといいかもしれないですね。その結果、場合によっては「やらない」という判断もありえるのではないでしょうか。「よくわからないけれどやる」というのが最もよくない。社会に出てからもそれをしてしまうようになりますよね。やるかやらないか、目的に応じて判断して決めていくのがよいのではないかと思っています。(産業能率大学経営学部教授 藤岡慎二)
そもそも論として、日本の学校は法規上何をしなければいけなくて、どこからはやらなくていいのかということを、きちんと棚卸しをする必要があると思うんです。その上で、行事に関しても「青森市でやってきた大事な行事だから、これはみんなでやりましょう」という合意が取れれば継続していく。ただ、勤務時間をオーバーするようであれば、これは話がおかしくなるので、勤務時間を守れるように調整するという観点は必須です。
先生方がハッピーでなければ生徒がハッピーにはなりません。先生方が余力を持って、車のハンドルでいう「あそび」の部分を大事にしていくことが重要だと考えています。(武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校 日野田直彦)
おわりに
「当然のことながら、今回の調査結果はこれで終わりではなく、この結果をバイブルにしながら改革のスタートを切っていくために活用します。『仕方がない』と諦めるのではなく、『仕方がある』こととして、提言にまとめていきます」(議長・大谷真樹)
次回の第5回会議は、10月4日に武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校の日野田直彦先生から、ご自身の経験に基づく学校改革についてお話をいただきます。その際にも、今回の現場の声を踏まえた上で、議論を進めていきます。
【学校の働き方改革については第2回・第3回会議もご参照ください】
Written by 教育ライター佐藤智